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LOVERS

きっかけは2018年12月23日に開催されていた「全日本フィギュアスケート選手権2018」女子フリーで本田真凛選手が演技に使用していた映画『LOVERS』の主題歌の曲だった。なんて優雅で気品に満ちた音楽なんだろう、なんて哀愁のこもった雄大な曲なんだろう、いったい誰が歌ってるんだろう、と、その音楽に惹き込まれたところから、ふと、自分がまだこの映画を観ていなかったことに気が付いたのだった。本田真凛選手がこれをフリーに使って演技してくれなかったら、私はそのまま映画『LOVERS』を観ないまま過ごしていたかもしれない。題名だけは何となく記憶があり、おそらく中国のワイヤーアクション映画『グリーン・デスティニー』の二番煎じだろうくらいにしか見なしていなかったのだろう。本田真凛はこの年2018年アメリカに拠点を移して練習を励んでいたそうで、彼女の演技については独特の優美さがあり、日本人として稀にみる可憐さが漂っている選手なので好感を持つファンはたくさんいるだろう。アジア映画『LOVERS』の主題歌を選曲して舞えるのは、本田真凛が最もふさわしいような気がする。いろんな大会で優勝できなくても彼女のあでやかな美しい演技は武器であり、高得点狙いの難度の高い過激なジャンプばかりが注目される昨今の醜い競技よりも、彼女のような可憐な存在はいつまでも見飽きないので大事にしてほしいものである。フィギュアスケートの魅力は、技術点よりも優美な演技構成点や自己表現にこそ芸術性が高く見られるので、ジャンプだけに偏って重視し採点するのであれば、いっそフィギュア・ジャンプ大会でもすればよい。何回転グルグル回って着氷しようが、私には興味のない話ではあるが。打算ばかりが目立つようになったスポーツ競技には、最早ギャンブル嗜好の傾向と変わらない。

そこで、この映画『LOVERS』の主題歌を歌っているのは、アメリカのソプラノ・オペラ歌手キャスリーン・バトルだということが判ったのだが、これを作曲した梅林茂という日本人音楽家の才能もすばらしいと思った。キャスリーン・バトルの歌い方は実に繊細で独特の歌唱に惹きつけられてしまう。いろんなクラシックを謳いあげるが、その胸の奥にしまい込むような歌いまわしは、壮大であり、ただただ圧倒されてしまうのだ。今回の『LOVERS』の主題歌を聴いていると、実にこの映画のために生まれて来た歌手ではないかと思ったくらいである。こういう歌い方もするキャスリーン・バトルは、正式にはリリック・コロラトゥーラ・ソプラノ歌手というそうで、舌がもつれそうな言い方だが、クラシック歌曲などで音節フレーズを装飾しながら、華やかな音節に魅せる歌い方らしい。確かに起伏のある山谷のフレーズをいつまでも聴いていたい魅惑がずっと漂っているのだ。『LOVERS』の主題歌を映画に取り入れてた頃、キャスリーンは55歳の頃になるかと思うが、熟練したオペラ歌手の最高潮の時でもあるだろう。その永遠に深く続きそうな息遣いといい、控え気味で澄みきった繊細な歌声は世界でも唯一無二なのかもしれない。張り上げるでもなく、薄っぺらいわけでもなく、大聖堂で共鳴し、雄大な高原で鳴り響いてゆくかのような限りなく美しい声の響きである。音楽の優しい曲に寄り添う映画作品『LOVERS』は後世に残る珠玉の名作である。アクションのみならず錚々たる俳優の存在感といい、映像の数々たる素晴らしい名場面は、まるで絵画のなかで蠢く色彩豊かな展開に有無を言わさず惹き込まれてしまう。

牡丹坊の舞伎館で舞う小妹(シャオメイ)ことチャン・ツィイーのクラシックバレーを想わせる反り上がった美しい脚の静止には、先ず驚かされた。小妹の長い衣裳を活かした戦いのような炎舞には圧倒される。そこでお披露目される太鼓舞曲「仙人指路」は、王朝の捕吏である(リウ)ことアンディ・ラウに向けられる刀剣を操った殺意に転じるのだが、この時、劉が360°囲んだ太鼓にめがけて白っぽいうずら豆を指で弾いて飛ばしてゆくシーンは圧巻だ。先ず驚いたのは太鼓に初めて一粒の豆が当たった時の超重低音で音波を広げる一撃だ。28Hz以下の低音はマーティン・ローガンのスーパー・ウーファーでは再生できない仕様なのに、なぜか20Hzの音源を空気密度いっぱいに満たしているような心地よさに包まれてしまう。このたまらない清澄感はおそらくスピーカーの配置と設置方法と7Nスピーカーケーブル及び大理石で工夫した長年のエージングの賜物であろう。30年間ケーブルを交換せず放置して来た電流エージングの極みかもしれない。前後に音が出て、高低182cmと左右2m幅の音源キューブが醸し出す自然な音域は初めからドルビーアトモスと同じ状況を作り出しているから、立体音像は『LOVERS』のような3D映像ととても至極マッチングしたのかもしれない。高品質映画は必ず音質音響にも力を入れているように思われる。特に新しい有名映画作品ほど音質技術収録が秀でているので、こういった2004年の名品『LOVERS』も原盤から4KやUHDブルーレイ化さらには3DのBDにDTS-HDマスター・オーディオ7.1chなど新たに作り直し各種再販してほしいものだ。





(2021/07/13)
文・ 古川卓也


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