未知なるもの SARS-CoV-2
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)
新型コロナウイルスがヒトの宿主細胞に侵入するために不可欠な「スパイクタンパク質」、つまり宿主細胞に取りつくフックのような役割を担う「受容体結合ドメイン(RBD)」と、宿主細胞を破ってウイルスを侵入させる「切断部位」という、スパイクタンパク質の2つの機能について解析がなされた記事を、2020年4月1日付のNewsWeek日本版で紹介されたが、アメリカのコロラド州立大学のチャールズ・キャリッシャー教授らの国際研究チーム及び世界最大の民間の非営利生物医学研究組織である米スクリプス研究所 らの共同研究チームらによる論文の概要に、今回わたしは大変興味が湧いた。ウィキペディアによると、スクリプス研究所は生物医療科学の研究と教育を行っている非営利の医療研究施設のようで、ノーベル化学賞受賞者のバリー・シャープレス、クルト・ヴュートリッヒを始め、研究や運営に関わる2,700人の職員が所属しているようである。この度のパンデミックに至った未知なる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の分子構造や性質への解析には、彼らの必死な解明がなされているもようだ。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、作為的な遺伝子操作による人為的生物兵器に依らないことは、現在まで特定されている既存種類のコロナウイルス遺伝子基礎部類の配列データが基盤から異なっており、明らかに改変されたものではないことが国際共同研究チームらによってすでに実証解析がなされている。なぜなら既知の病原性ウイルスの分子構造をベースに作製するはずだからとしている。よって、いわゆる自然起源のもので、調べてゆくと、どうやらコウモリやセンザンコウにみられるウイルスと似ていたとのことだ。では、どうして現在のようなヒト-ヒト感染に至ったのかということであるが、コウモリやセンザンコウに接触し手をかけて感染した人間がいたからであろうが、異種漢方薬や健康食品的な効能を謳って製造販売した者がいたからであろう。いずれにせよ、地球に生息する生命体やウイルスは46億年の地球環境変化と歳月をかけて、さまざまに進化し続けているわけだから、生き続けてゆくためにそれぞれが長いあいだにじわじわと環境に対する耐性を備え、やがて自然淘汰のなかで新しいものが生まれて来るわけだ。この最兇にして未知なるものが、西暦2020年初頭から猛威を振るい中国大陸を初めとした、欧米や南半球にまで巻き添えにしながら、世界中を想定外の勢いでパンデミックの禍を招いているのは実に空恐ろしいことだ。恐怖と死闘の伝染病連鎖が世界中止まない非常事態に、今われわれ人類はどう立ち向かえばいいのだろう。見えない敵に打ち勝つには、敵が見えるようになるしかない。敵の性質と正体を知ることで、対処の仕方が明確になって来るはずだ。そして、その手強さに危機意識もさらに高くなることだろう。人命ばかりでなく世界経済をも飲み込む新たな敵の挑戦は、まだ始まったばかりである。かりに第1波が収まったとしても、北半球と南半球が交互にパンデミックを起こし続けるなら、そのあやふやさは年単位で大きな波長のように第2波、第3波へと繰り返しつつも、理想的な終息はなかなか止まないかもしれない。
新型コロナウイルスがもたらす急性呼吸器疾患 (COVID-19)を惹き起こすウイルス(SARS-CoV-2)の性質について、この感染症がどのように増殖して伝染してゆくか、非常にわかりやすビデオアニメーションが現在、下のYouTubeですでに公開されており、Nucleus
Medical MediaとWhat If Channelの友人との制作によるコラボレーションは実に必見といえる。
VIDEO
ウイルスの標的
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)がヒトからヒトへ伝染してゆくのは、人間の細胞が最も大好物だからであろう。格好のターゲットであり、増殖に最も都合のいい細胞メカニズムを人間は有しているからであろう。しかも人間は歩き、人間は人間を引き寄せる。ウイルスは自らが歩けなくても、人間のほうでヒトからヒトに渡り移れるほどの距離を提供してくれる。ウイルスは少しの風や気流で漂いながら、エアロゾルであれば数時間ほど浮遊していられる。ヒトが息を吸ってくれるおかげで、ヒトの体内に入りやすい距離が得られれば、ウイルスは喜んで侵入する。もともと自己増殖ができないウイルスは、ヒトの生きた細胞の内部で増殖したり自己複製することで生き延びてゆく。全身に鈎爪(かぎづめ)を持ったようなこの新種のウイルスは、人間のありとあらゆる細胞組織を巣喰いながら侵入してゆくわけだが、当然ながら毛細血管の中にまで浸食してゆくようだ。髄膜炎を発症させる症例もあり、頭に猛烈な激痛を伴わせてしまったり、中枢神経系にも侵入することが判って来ている。意識障害を起こし、心肺停止にも至る。しかも人工呼吸器を装着して重症になってしまうと、手がつけられないほどの早さで急速に悪化して死に至ってしまうのだ。この恐ろしさは連日メディアで放送され続けている。世界中が都市封鎖して収束が見えないパニック状態だというのに、日本だけがいまだそのようなパニック状態には至っていないと盲信し続けている国家の姿勢は、危機が襲ってもそれは危機の定義とはならないといった何だか御釈迦様の悟りのようでもある。涅槃の境地なのか、おバカなのか判らないが、わが国ではおそらく取り返しのつかない事態が待っていることだけは確かだ。
2020年4月11日(日本時間11日午前4時)現在で、世界193の国・地域での新型コロナウイルス感染者数は166万4111人、死者数は10万859人となっている(AFPが各国当局の発表に基づき統計)。今回ばかりは身分・年齢・所得に関係なく急速にヒトに感染してゆくのが、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の威力なのである。そのウイルスの標的は、生きた人間を狙って侵入し、ヒトの細胞内で増殖しては、人間が死んだ後も、接触感染や飛沫感染のみならずエアロゾルともなって次の標的の人間に乗り移ろうとする。感染力となるそのスピードは、2002年に発生したSARSの360倍ともされている。新型コロナウイルスの感染対策を1月から本気で強固にして来なかった日本は、すでに手遅れであろう。万事休すである。ようやく4月7日になって足元の医療崩壊の兆しを受け、日本政府は声高らかに7都府県を主に緊急事態宣言を発出したが、自粛要請と108兆円規模の補償をしたものの、のちにその補償内容の蓋を開けてみると、大半が無利子の融資内容で、コロナ災害で所得が半減した人たちが対象となり、現金給付には細かなカラクリのような自己申告制の条件が複雑に縛ってあって、弱者へは単に泣き寝入りの経済対策だった。緊急性や切迫感のない拳を上げただけの、木鐸を並べただけの、現場不況の痛みとは程遠い、暗に上っ面だけの補償中身で、現実の困窮とは全く乖離した、薄っぺらい、さもしい宣言だった。
人命より経済を優先にする日本政府は、新型コロナウイルスの実態恐怖を知ってか知らずか、危機管理の薄さと不勉強を世界に露わしたも同然だった。これから長期に渡ってどれほど疫病の恐怖と経済危機が襲って来るのかが、全く判らないらしい。助かるはずの命も医療崩壊によって助けられずに、地獄のフタが一気に開いて、なすすべもなく沈んでゆくのであろう。想像力と危機意識が欠如した日本政府は、これ以上真実の実態数から眼を逸らさないことだ。アンケートのような確率の統計は今すぐやめて、具合の悪い疑陽性保持の患者にはすべて問診後、改善された、気軽で簡便なPCR検査をたくさんしなければ、全国の実際の感染者数の母数実態数は把握できまいし、陽性の人に無症状者や軽症者がいようがいまいが、潜伏期間が長いこの感染症への対策は、早めの早期発見、早期隔離、早期治療をしなければ市中感染は広がる一方だし、重症になってしまった時には、間に合わない事例が多いのだ。COVID-19に対して、人工呼吸器やECMO(体外式膜型人工肺)があるからといって日本の医療技術は高いから安心だという過信はやめたほうがいい。医療従事者の不足のほうがもっと深刻だからである。まして全国各地で院内感染が増え始めると、さらに深刻だ。あくまで未知の感染症であって、治療薬の確立もされてなければ、ワクチンも無いのだ。今後どれだけの死者数を世界に及ぼしてしまうのか、また国内を見れば、このままでは全国への異常な増加数値からして極めて恐ろしい加速的感染拡大は必至だ。それでも政府には、最後まで諦めないという姿勢が大事である。このままだと、ぬるくて甘い日本政府には、のちのち民衆から途轍もない憎悪の審判が下されることになるだろう。国民と企業に外出自粛を要請しながら、わかりやすい手厚い救済補償を素早くしない弱腰の、みみっちい日本政府の今の姿を見ていて、国から愛されなかった多くの国民は、これまで祖国日本をとても愛してきたのに、とても残念に思うであろう。深い喪失感に明け暮れてしまうだろう。日本では、人命よりも経済を優先されてしまったと。
それはさておき、SARSコロナウイルスと同じベータコロナウイルス属(人畜共通起源のエンベロープを備えたポジティブセンスの一本鎖RNAウイルス)に分類される今回の新型コロナウイルスの遺伝子は、SARSコロナウイルスの遺伝子と相同性が高く(約80%程度)、さらに、SARSコロナウイルスと同じ受容体
(ACE2)を使ってヒトの細胞に吸着・侵入することが最近の研究で報告されている(日本ウイルス学会 )わけだが、そのコロナウイルスの特徴としては、同学会のHPによれば、「コロナウイルスはプラス鎖一本鎖のRNAをウイルスゲノムとして有するエンベロープウイルスです。ウイルス粒子は直径
約100-200 nmで、S (スパイク)、M (マトリックス)、E (エンベロープ)の3つの蛋白質で構成されています。S蛋白質は細胞側の受容体(ウイルス蛋白質を鍵とするとその鍵穴)と結合して、細胞内への侵入に必要な蛋白質です。コロナウイルスのゲノムRNAは約3万塩基とRNAウイルスの中で最長なのが特徴です」と説明がなされている。このウイルスが侵入してゆく図解が紹介されたのは、わたしがいま手元の資料としている「NewsWeek日本版 」2020年3月10日号の冊子である。表題「緊急特集 新型肺炎 何を恐れるべきか」の中の「世界が想定すべき最悪のシナリオ」という記事だ。資料はMDPI に依るとある。MDPIはGoogle検索で日本語訳読みにしてゆくと便利な気がする。ウイルスに関するジャーナル記事が豊富に見られる。
(2020/04/13)
文・ 古川卓也