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シネマ日記 2015



文・ 古川卓也


『質屋』(1964年米 116分) [主演:ロッド・スタイガー  監督:シドニー・ルメット]

BSスターチャンネル2で映画『質屋』を観たのは先月のことである。2015年1月25日付の深夜番組で、もともとスターチャンネル1~3は映画を主体とした放送チャンネルだ。深夜の映画だったので、録画しておいて後日あらためて鑑賞した。映画のタイトル『質屋』というだけで、名作なのではないかと直感したのだった。60年代のニューヨークといえども、世の中はまだまだすさんでいて荒っぽい時代を反映していた。映画もモノクロで描かれている。時代色もそのまんまレトロな車が往き交い、清楚な身なりもオシャレなファッションも素朴にみえた。質素と権力争いがはびこる時代でもある。格差と階級も如実にあらわれる時代背景だ。

ロッド・スタイガー演じる質屋の主人ソル・ナザーマンは元ポーランドの大学教授で、かつてナチスのユダヤ人強制収用所に送られた過去を持つ男だった。そこでは妻子も殺され、ひどい迫害に遭い、途轍もなく暗い絶望の淵に突き落とされてしまう。魂の抜殻同然の日々を終戦からも悶々とその後も送っている。残虐で残酷な人間を見てしまったソル。人間に裏切られ、深い悲しみだけをひきずって生きているソル。人間不信感から、もはや金しか信じられなくなってしまった孤独なソルが、ニューヨークで質屋を営むが、来る客来る客が金目当てにウソや誇張をならべながら質草を持って来る光景にうんざりしながらも、「2ドル」としか言わないのがまたいい。店主ソルは鋭い鑑定眼も持ち合わせており、いつしか人間の洞察にも長けていた。そこへ慈善事業をしているマリリンという中年婦人も現われるが、ソルの根底にひそむ人間不信感は変わらない。質屋の助手として働くことになった活発なプエルトリコ人の青年ジーザスの存在にも胡散臭い不信感を持つソル。だが、次第に、這い上がって生きてゆこうとするジーザスの本能に、ソルは少しずつ人間性の回復に目覚めるようになるのだが、ジーザスと関わる悪い仲間たちの裏切りをまたしてもソルは遭遇してしまうハメになるのだ。

悪行から断ち切れぬ貧民街の縄張りを持つロドリゲスに、実はソルの質屋も世話になっていたという事実を当人の口から知ったソルは、嫌悪感を抱きつつも権力の支配下に屈服してしまう自分の弱さに愕然としてしまうのだった。助手ジーザスとつるんでソルの店に強盗に入った仲間たちの行動は、完全にソルの心をズタズタにしてしまう。悪意に満ちた人間の無知蒙昧と荒廃はいつも野蛮となり人間を残酷にする本性を、このニューヨークでも思い知ったソルは、結局自殺も出来ない極限状態に陥り、街なかを彷徨うところで、この映画はエンディングを迎える。人間の卑劣さや策略の無慈悲さをソルの身に背負わせてゆくストーリーの流れに、ロッド・スタイガーの凄まじい演技も相俟って、われわれは惹きこまれてゆく。なかなか、久しくこういう映画とは出会わない今日だけに、やはり半世紀を越えても名作であったことには違いあるまい。半世紀前のアメリカの質屋を通してみえてくる人間模様を描いたこの映画に、批評の余地は意味もなく異論すら空しい。すばらしい映画は基本的に、すばらしい俳優と監督によって仕上がるものだということを証明している。

(2015/02/17)


先端テクノロジーが音響を変える、ちょっとイイ話

電子部品関連の小難しいテクノロジーのお話しではありません。エレクトロニクスでもハードウェア、それもローテクの再生について。近年ハイレゾ音源に躍起となり始めた日本の電気メーカー各社の動きに鈍感な私は、バブル絶頂期に最高級機のオーディオ機器を買い揃えていましたので、より良い音を求めてエージングのために25年間使い続けて来ました。オーディオアンプにブルーレイレコーダーをつないだことにより、自宅での映画鑑賞が断然楽しくなりました。今ここでは映画の話は致しません。

昨年映画館で観た『LUCY(ルーシー)』をレンタルBDでもう一度わが家で鑑賞したのですが、映画(字幕)の冒頭からこれまでに聴いたことのない最新音響に耳を疑いました。BD英語はDTS-HDマスター・オーディオ5.1chです。脳細胞が100%覚醒するストーリーともなると、こんな次元のサウンドを伴うのかと驚愕しました。AVアンプのハイレゾ音源では再生できない低音で、『LUCY』にだけ仕掛けられたリュック・ベッソン監督の手法です。サンシャイン下関の映画館でも体験しなかった音で、ハイエンド・オーディオアンプ・システムでのみ再現される音の発見でした。イントロとエンディングの音には特に注目です。

(2015/01/21)

文・ 古川卓也





制作・著作 フルカワエレクトロン

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