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シネマ日記 2019


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『運び屋』 (原題:The Mule) (2018米)

監督・主演:クリント・イーストウッド
原案:『ニューヨーク・タイムズ』のサム・ドルニックの記事「The Sinaloa Cartel's 90-Year-Old Drug Mule」より
脚本:ニック・シェンク(『グラン・トリノ』)

いったいどんな作品なんだろうと、とても興味深かった。今年2019年の3月に日本でも公開されていたが、映画館で観る機会を逸していたのか、まあレンタル開始後でもいいか、とも思っていたのか、先週の6月22日(土)にBDをゲオで借りて、当日早速『運び屋』を鑑賞した。はて、クリント・イーストウッドは今、何歳だったっけと思いつつ、映画を観ていった。クリント出演の映画を観たのは『人生の特等席』(2012)以来だったので、あれからまた少し老いちゃっただろうなあと思ってたら、案の定ずいぶん老いてたが、クリント・イーストウッドが今も映画に出てるというだけで、わたしなどはわくわくするし、スクリーンに立ってる姿を見てるだけで感動してしまう。何歳になっても、カッコいいアウトローの魅力にあふれていて、つい泣けてしまう。まだ小学6年生だったわたしは毎週何曜日だかの夜8時頃からテレビドラマ『ローハイド』を観るのが楽しみだった。音楽のメロディーが「ローハーイ!~」と歌声のひびきが高なる旋律は、今も耳に残るものだ。その頃の外国テレビドラマやTVマンガは『ララミー牧場』に『ポパイ』や『トムとジェリー』などもやってて、必ずそれらも楽しみで観ていた。もちろんすべてモノクロのTV番組だった。

そんな時代の西部劇『ローハイド』から知っていたカーボーイ役のクリント・イーストウッドの映画は、『荒野の用心棒』、『夕陽のガンマン』、『ダーティハリー』シリーズ、『ガントレット』、『アルカトラズからの脱出 』、『ファイヤーフォックス 』、『許されざる者 』、『ミリオンダラー・ベイビー 』、『グラン・トリノ 』など、数えたらキリがないほど多くの作品を観て来た。時代と共に一緒に生きていた俳優であり、年数を計算すると、55年間もクリント・イーストウッドのファンだったことになる。勧善懲悪、正義の味方、一度もそれを裏切る役者ではなかった。多少ひねくれて粗野のキャラ役ではあったが、人間性を裏切る役回りには絶対と言っていいほど無かった。ジョークがうまい安心して心寄せれるヒーローだ。また、そんなヒーローの偶像をアメリカは作り上げて来たといってよい。そして、アクションスターとしてのクリントが築き上げた唯一無二の世界観は、その後に頗る影響を世界に与え、実に多くの有名アクションスターを世に排出して来たと言ってもいい。俳優だけではなく自分流の作品に昇華させるために、41歳の頃から監督としてのメガホンも取りはじめた。敏腕の刑事役として走る電車の屋根に上がったり、高いビルの外に立って自殺願望の男を助けるでもなく、「落ちたい奴はさっさと飛び降りたら気が楽だろうが、下でぐちゃぐちゃになった死体を拾い集める警官が気の毒だよなあ」と刑事ハリー・キャラハン役(クリント)のセリフは、何とも的を射ったキャラが出てて面白い。声優の山田康雄の吹替が実にすばらしく、クリント・イーストウッドといえば元祖・山田康雄が最高だった。

さて、半世紀も一緒に身近に時代の空気を共にして来たクリント・イーストウッドが、来年の2020年5月31日には満90歳を迎えるわけだが、そんな90歳になろうかというクリント。映画『運び屋』で主人公のアール・ストーン(クリント)が癌で最期を迎えようとしているベッドの妻に、はなむけとして述べた言葉がまた哀れで面白い。「100歳まで生きようとするのは、99歳まで生きた人間だけだ」と。そもそも、家族よりも仕事をいつも優先して来たアール・ストーンの生涯は、娘の学校の卒業式も、夫婦の結婚記念日も、そして娘の結婚式さえも、さらには孫娘の結婚式でさえも、あらゆる家族の記念日を無視して、花農場の主人アールは毎年デイリリーの花の品評会で賞を受けるためだけに社交を優先して、みんなの人気者になっていたのだが、いつしかインターネットでのネットショップ隆盛によって自分のサニーサイド花農場は衰退、倒産の目に遭ってしまう。たまたま孫娘が結婚式前におこなっていた自宅でのパーティの場にアールが顔を出すと、不仲の妻と娘が現われ、アールを嫌ってしまいケンカ状態になる場面から、この映画『運び屋』への核心につながってゆくわけだが、これが実話を基に映画化されたのも凄い。そして、老いた主人公アール・ストーンの役を演じきれるのは、まさにクリント・イーストウッドをおいて他に誰もいないとしたところが、この映画の醍醐味でもある。

2018年に映画が完成し全米で公開されたとき、クリントは88歳。2019年6月現在は89歳。『運び屋』のロケはニュー・メキシコ州ラス・クルーセス、ジョージア州アトランタなど各地で撮影されている。87歳から88歳までカントリーミュージックをぼそぼそと歌いながら、町から町へ旅をするかのように車を運転していたクリントの横顔は、実に楽しそうだった。老いた身で車を運転しながら、騙されてやむなく麻薬の運び屋とされてしまったアール・ストーンを演じたクリント・イーストウッドの姿を、まさか映画スクリーンでこの2018年、2019年になって観ようとは、世界中の誰も想像し得なかったのではなかろうか。映画のなかで麻薬組織の悪党たちから「爺さん」「老いぼれ爺さん」と呼ばれていた姿は、やはり何とも切ない。だが、これほど味のある輝きを放った老人をいったい他に誰が演技できようか。元退役軍人で人の良い性格を悪人に利用されてしまった、せつないアール・ストーンという人間を描くには、クリント・イーストウッド自らが先頭に立って打って出た最高のアウトロー適役といえるのではなかろうか。この犯罪映画の実話の基となる実在人物、園芸家のレオ・シャープは、しかもクリントと同じ年齢だというからびっくりだ。あまりに感動して、珍しくわたしはレンタルBDを2回ほど観てしまった。特典映像もすべて観た。BDも是非買いたいところである。何度観てもすばらしい映画のような気がする。罪を犯したことを自覚して刑務所に服役することになるが、それでも、有刺鉄線と高い壁に囲まれたムショの敷地内にある小さな畑でデイリリーの花を栽培するアールの笑顔が、映画の最後の最後まで小気味よく微笑ましいのは、何ともたまらない。

(2019/06/27)




『MEG ザ・モンスター』+脅威の深海サウンド
主演:ジェイソン・ステイサム  監督:ジョン・タートルトーブ

映画『MEG ザ・モンスター』(2018米中合作)を映画館で観たのは昨年2018年9月12日のことで、それ以降のレンタル開始BDにも正直あまり関心を抱いてはいなかったために、レンタルで観ることもなかった。ありきたりな映像で、期待はずれだった。大抵は感動した映画は必ずレンタルBDでも観ている。なのに、どうして今頃になって『MEG ザ・モンスター』なのか、しかもシネマ日記に書く気になったのか。きっかけはといえば、ショッピングモール内の、とあるCD・DVD・BD販売店で『MEG ザ・モンスター』(3D・2Dブルーレイセット2枚組 / 税込\6,469)が、なんとその日だけ定価の50%オフになっているのを見つけ、これはチャンスだと思い、買ったのが動機である。いくらB級映画に思えたとしても、2018年公開映画のまだ新しいものが3Dブルーレイでも販売されるのは稀有であり、ましてジェイソン・ステイサム主演となれば、何らかの意外な価値が作品に秘められているのではないか、と直感もあったからである。もう一度観直してみる気になったのだ。反面、なぜこれが半額対象品になったのかも、後でその理由も判った。

そのCD販売店ではショッピングモールの500円ポイント券も使え、それを1枚持っていたので、合わせて50%オフ+500円値引きのお買物となり、ゆめカードと一緒にポイント券と、このBD2枚組を会計カウンターに差し出したところ、感じのいい店員さんが「Tカードもお持ちですか?」と笑顔で言うので、わたしは「はい」と言ってTカードも差し出したところ、「ポイントが貯まってますので、きりのよい端数で差し引きましょうか?」と言われ、わたしも「どうぞどうぞ全部使ってください」と言ったら、「2100円になります」とのこと。結局、な、なんと、税込\2,100で購入することができた。税込\6,469のものが、税込\2,100で3Dのブルーレイが手に入ったのだ。廉価版に3DのBDは通常どの店にも売っていないと思うが、近年は数年も経てば人気作品の2DのBDは\1,500くらいで出て来るものの、3DのBDを安く新品で入手しようとしても、そう簡単には見つからないはずだ。なぜ、ここまで店頭販売で半額にされていたのかと考察するに、どうやら2019年5月1日の新元号「令和」のお祝いも兼ねていたと思われる。
   
普通の人は映画館鑑賞かレンタルで鑑賞して終わりなのだが、BDをわざわざ所有したい人は、おそらくホームシアターか何らかのオーディオAVシステムを所有しておられる人たちのはずである。さらに3DのBDを所有したい人は、3Dの世界の楽しさをも知っている人たちのはずである。また、その環境を所有しておられる人たちのはずである。それはともかくモールのその販売店はなぜこの新しい『MEG・・・』3D・2Dブルーレイ2枚組を半額にしていたのか、実はこの半額品の後ろに置いてあった4K版の4K Ultra HDのブルーレイと3D・2Dブレーレイ3枚組を前面に早く出したかったのであろう、とわたしは推測した。もちろんこちらの4K版セットは定価販売のままだった。4Kも2Kもそれほど違いの感銘は受けない鈍いわたしは、映画に興味があって、液晶画面の繊細感に興味があるわけではない。もちろん大画面のスクリーンが繊細でキレイに越したことはないが、ならば4Kの3Dも作ってほしいと思うのだが、現状の3Dはすべて2Kなのはどういうことなのか。4Kから8Kにすれば3Dに見えてくる論理もあるようだが、科学的・分子構造的には無理な気がする。スクリーンに映像を投影するかぎり、いくら人間が両眼で3D視界を持っているとはいえ、曲面スクリーンであれ、平面スクリーンであれ、立体として映像を捉えるのは難しいのではなかろうか。徒に脳の認識を錯覚させればよい、とはならない。バーチャル・リアリティすなわちVR世界という仮想現実に視聴者を引き込もうというのであれば、そもそも薄い液晶画面では限界があり、いっそVRゴーグルを装着してスマホなどで映画やゲームのなかを歩き回るのがいちばん理想であるとするならば、そもそも映画鑑賞のあり方さえ転換させてしまうことになり、本末転倒な気がする。

本来映画とは、サウンドなくして無意味な気がしている。今回、『MEG』の3Dをわが家であらためて鑑賞してみて驚いたのは、驚愕の深海ワールドと共に、美しい超重低音の音域がすみずみまで迸っていたことだった。まったく手を抜いていないサウンド構成技術にびっくりしたのである。映画はドルビーアトモス+ドルビービジョンでVFX収録されただけに、海底であれ海上であれ、あらゆる方向から鳴り響いて来るサウンドトラックは抜群の心地よさで、それが同時にわかりやすいストーリーの進行と共に作品のレベルを一気に浮上させていた。とてもB級映画とは言い難い、いや実に失礼千万であったことが判った。では、なぜ、映画館ではそう思わなかったのだろう。たぶん音響システムの違いがそうさせたのだろう。普通のシネコン劇場であったし、左右に4個ずつスピーカーがあっただけの設備だった。他の劇場でドルビーアトモスやDTS-X仕様の設備された映画館で鑑賞しておいたら、きっと違った感想が得られていたに違いない。ただ、超重低音に弱い従来形アトモス劇場で果たして高域から低域までのキューブ臨場感をどこまで理想的に堪能させてくれたのかは憶測でしかないが、本当のこれからの映画未来図はもっと凄いものになるのかもしれない。静から動へアトラクション・スタイルのみならず、前後左右上下を包み込む体感型シアター4DX with ScreenX なるものが先頭に躍り出て主流になるのかもしれない。わたしのような古い人間は、ごく普通に座って名作から新作まで、いい音といい映像で、できればなるたけ大きな画面で映画が鑑賞できれば、それだけで満足だ。『MEG』3Dブルーレイ字幕が5.1ch DTS-HD Master Audio で、2Dブルーレイ字幕にはドルビーTrueHD ドルビーアトモスと5.1ch DTS-HD Master Audio の二つの音声が選択できるのもすばらしい。わが家のオーディオ・ホームシアターのシステムには実に相性がいいようだった。あらためて作品『MEG』に感服。そして新星堂に感謝。

(2019/06/14)


文 ・ 古川卓也





制作・著作 フルカワエレクトロン

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