手 占い師は手のひらを見れば、運勢がみえるというが、私の緑色の手のひらを見て、占い師は何と言うのだろうか。占い師は生命線と手相を見るだけで、手のひらの皮膚の色までは見ないかもしれない。どんな運勢なのか、私は千円支払って占い師に診てもらった。 「未来永劫。迷わずこのまま道を進むべし。福来たる」 なんと、おみくじでも引いたかのような口振りだった。 三十分も水晶玉と睨めっこをして、これかい。三十分千円なら、時給二千円とは、いい商売してるぜ。胡散臭いインチキ商売を承知の上で占ってもらったのだが、私の緑色の手のひらについては、結局、何も触れなかった。カルキの溶剤を使っても、なかなか色が落ちない手のひらなのである。 鋭利な刃先を持ったスリッターという機械で印刷工場の仕事をしている私は、もう三十年以上になるが、その鋭利な刃先は手のひらをさんざん切り刻み、皮膚の傷に浸透した印刷機の塗料で自然と緑色になっている。手の表は普通の人間の皮膚の色なのだが、裏側の手のひらはまるで植物の葉っぱのようだ。最近、七歳になる孫娘が私のことをヤツデちゃんと呼ぶようになった。もみじのような手の孫が、ごわごわしたヤツデじぃの小指をやたら掴んで放さなくなった。 |
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短編小説集『ブルーベリーの王子さま』 (2020/09/15) |ホーム| |
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