「三人で空飛んでる」と史郎は、眼下の街並みを 「ワシもさっきから飛んでるわい」と由良之助が言うと、 「なんだ、お前もいたのか」と史郎は笑いながら言った。 「いちゃ悪いかの。ワシは死刑執行人であると同時に、お前さまの天国の番人でもあるんじゃ。ほれ、右にまわれば、あそこに大きな門が見えるじゃろ。あれこそが天国の門なんじゃ。恋しい恋しいお前さまが望んでた、 モクモクとした雲の上にそれは聳え立っていた。まるで地上の凱旋門のようでもあり、その何倍もの高さで聳えて見えた。次第に近付いてゆくと、巨大な石の門柱には磔刑された罪人たちの彫刻像が天高くまで薄気味悪く彫られていた。うなだれている者や藻掻き苦しんで叫んでいる者たち、苦痛から逃れようとして絶望的に笑う者や、悟りをひらいて瞠目する者、ひたすら打ちひしがれて悶絶する者たちばかりのレリーフだった。天国の門とは名ばかりの、苦痛の茨に突き刺さっている人々の阿鼻叫喚におもえた。 この門の先にいったい何が待ち構えているのだろう、と史郎は恐怖をおぼえたが、不夜子の澄んだ声でハッと我に返った。 「史郎ったら、ちょっと目を離したら浮気っぽいんだから。芽芽子なんか忘れなさい」と史郎の頬に顔をすり寄せて目くばせをした。しなやかな肢体を持った不夜子の大きな瞳と長く反ったあでやかな睫毛が、次第に史郎の顔に覆いかぶさってきた。ぬるぬると首筋を這い上がり、史郎の |
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短編小説集『ブルーベリーの王子さま』 (2021/08/12) |ホーム| |