と芽芽子は言いながら、史郎の腕を引っ張った。 二人はすうーっと浮いて、病室から出て行った。 「もしかして、ボクたち、廊下の上を飛んでる? クラゲちゃん」と史郎が訊くと、 「史郎。そのクラゲちゃんはやめて、芽芽子って呼んでくれないかしら。芽芽子だけが史郎のお嫁さんになるのよ。誰よりも史郎のことをいちばん愛しているんだから」 「そうだったね。夢のなかでは芽芽子がいちばん光ってたし」 「わたしのこと、電気クラゲに思ってる?」 「そういう意味じゃなくて、どの脚もスラリと長いし、優雅な泳ぎ方してるんだなって見惚れてたんだ。その美しい脚にボクも絡まれたいなって、前から思ってたんだよ」 「じゃあ、こんな風に、絡めましょうか」と言いながら、芽芽子は史郎の両脚に絡んできた。絡まり合った二人は、病院の十階廊下を突き抜けて、薄青い空を舞い上がっていった。 「ああ、ボクたち空を飛んでるんだ。車や人があんなに小さく見えてる」 「史郎。この日が来るのを、ずっと待ってたのよ」と芽芽子が言うと、 「わたしの史郎。もう離さないから」と不夜子がどこからともなく現れて、芽芽子の細長い脚をつねった。 「イタッ。不夜子姐さん。どこに隠れてたのよ」と芽芽子はおどろいて訊いた。 「史郎の |
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短編小説集『ブルーベリーの王子さま』 (2021/08/12) |ホーム| |