と由良之助が言った。
「本当はもうあの世を彷徨(さまよ)っているんだろ。廊下を毎日歩いているのは、オレの肉体じゃなくて、アバターなんだろ? 人工呼吸器で生かされてるオレの脳が、まだ死にきれてないから、脳死判定ができないだけなんだろ、由良之助?」と史郎は突き詰めた。
「なんだ、わかってたのか。ワシの姿は、お前さんの眼には、どんなふうに映って見える?」
「赤く腫れた顔の死刑執行人さ」
「具体的に、どんな顔なんじゃ?」
「目も無く鼻も無く捉えどころのない赤い(かたまり)…」
「ほう。肉体から切り出した癌のようなものか。そいつは歩くのかい?」
「そこに立ってるじゃないか」と言って、史郎は由良之助を睨んだ。
「まあまあ、そんな難しいお話し、つまんないわ。ねえ史郎、わたしの唇、舐めてみない」とナマコの不夜子が史郎に近寄って来た。
「甘いハーブ味を塗ってみたのよ。きっと好きな味になると思うわ」と不夜子。
「あ~ん、ずるい。不夜子姐さんったら、ちょっと、史郎から離れなさいよ」とクラゲの芽芽子が二人の間に入って、不夜子を押しのけた。
「ね、史郎。部屋から出ましょ。二人きりでお話ししたいの」
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短編小説集『ブルーベリーの王子さま』

(2021/08/12)

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