「史郎はわたしのものよ。不夜子姐さんには渡さないわ」と芽芽子が反撃して来た。
「あなたねえ、クラゲの分際で生意気なのよ」と不夜子。
「なによ、姐さんなんか人間の食卓に切り刻まれて、オカズになって大人しく食べられてればいいのよ。コリコリとして珍味だし」と芽芽子。
「じゃあ、あなたはどうなのよ。水族館に幽閉されて、人間たちの見世物になってれば。さぞかし珍重されて、人間の子供たちの夏休みの宿題になってれば。クラゲの観察日記にでもなるのね。ホホホッ」と不夜子。
「おいおい。姉妹でケンカするもんじゃない。ここをどこだと思っとる。天国の番人としては示しがつかんだろが。人間の男の取り合いっこはするんじゃない。史郎にだって選択の権利があるだろうしな。そうじゃ、エイの王女さまが史郎のような人間を欲しがってたよなあ。何も考えない人間どもが数多(あまた)おるなかで、哲学者のような史郎を確か探してたと思うぞ」
 と由良之助が不夜子と芽芽子のあいだに割って入ってきた。
「王女さまが、史郎を …」と不夜子は怪訝そうに由良之助を睨んだ。
「大王さまは私に約束してくれたのよ。稀有な史郎はお前に与えよう、って。王女さまには釣り合わないし、史郎を摩耶姫さまの下僕に使うなんて、許されないことよ」
「史郎が王女さまの下僕に? あり得ないわ」と芽芽子も動揺した。雲に霞む天国の門を抜けて上空を見上げると、大きな黒い影が弧を描くようにゆったりとまわっていた。
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短編小説集『ブルーベリーの王子さま』

(2021/08/12)

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