「史郎はわたしのものよ。不夜子姐さんには渡さないわ」と芽芽子が反撃して来た。 「あなたねえ、クラゲの分際で生意気なのよ」と不夜子。 「なによ、姐さんなんか人間の食卓に切り刻まれて、オカズになって大人しく食べられてればいいのよ。コリコリとして珍味だし」と芽芽子。 「じゃあ、あなたはどうなのよ。水族館に幽閉されて、人間たちの見世物になってれば。さぞかし珍重されて、人間の子供たちの夏休みの宿題になってれば。クラゲの観察日記にでもなるのね。ホホホッ」と不夜子。 「おいおい。姉妹でケンカするもんじゃない。ここをどこだと思っとる。天国の番人としては示しがつかんだろが。人間の男の取り合いっこはするんじゃない。史郎にだって選択の権利があるだろうしな。そうじゃ、エイの王女さまが史郎のような人間を欲しがってたよなあ。何も考えない人間どもが と由良之助が不夜子と芽芽子のあいだに割って入ってきた。 「王女さまが、史郎を …」と不夜子は怪訝そうに由良之助を睨んだ。 「大王さまは私に約束してくれたのよ。稀有な史郎はお前に与えよう、って。王女さまには釣り合わないし、史郎を摩耶姫さまの下僕に使うなんて、許されないことよ」 「史郎が王女さまの下僕に? あり得ないわ」と芽芽子も動揺した。雲に霞む天国の門を抜けて上空を見上げると、大きな黒い影が弧を描くようにゆったりとまわっていた。 |
( 76 ) 薄青い空 < 7 > |
短編小説集『ブルーベリーの王子さま』 (2021/08/12) |ホーム| |