樹脂系フラックス
日本工業規格JIS Z 3197(2012)「はんだ付用フラックス試験方法」に基づく規格・規定の作業試験項目、ISO 9454-1~ISO 9455-17~ISO 12224-2~IEC 61189-5~IEC 61190-1-1に至る項目中、国際規格および全体評価:MODすなわちISO/IEC
Guide 21-1に対応または程度に準ずる15項目において、正規の実験室にて安全試験措置がとられていることが前提となり警告が付されているものである。この規格の適用範囲は、主として電気機器,電子機器,通信機器などの配線接続,部品の接続などに用いるはんだ付用フラックスの試験方法について規定されたものだ。
この規格試験のために、具体的試薬や化学分析用器具等の引用規格項目も諸々40項目規定もあるが、今回わたしは特に樹脂系フラックスの定義に注目してみた。樹脂系フラックスはロジン(松やに)など、樹脂質を主剤にしたフラックスで、ロジンには変性ロジンを含み、溶媒として有機溶剤を用いる、と注記にある。そこで、はんだ付性を向上するために、混合または化学的な方法で付加する活性剤に含まれたハライド含有量(Halide
content)というものに着目した。ハライド含有量とは、フラックス中の、塩素(Cl)、臭素(Br)及びよう素(I)含有量の合計を塩素(Cl)含有量に換算した値で、樹脂系フラックスの構成材料と形状を表にすると次のようになっている。
主剤 |
活性成分 |
ふっ化物含有 |
形状 |
樹脂系ロジン (*1) |
無添加 |
F(あり) |
液状 |
合成樹脂 (*2) |
ハライド系活性剤 (*3) |
N(なし) |
固形 |
(*1)変性ロジンを含む。
(*2)ペンタエリストールの有機酸エステル、フェノールまたはクレゾール誘導体、
スチレンマレイン酸樹脂、アクリル系樹脂などの樹脂。
その多くは、超低残さ(渣)フラックスに用いる。
(*3)その他の活性剤があってもよい。
(JIS Z 3001)
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試験方法の分類、種類、目的および試料の採り方などが規定に沿って順次説明されているが、ハライド系活性剤含有量試験では「電位差滴定法」というものが紹介されている。試験の概要には、「フラックスを適切な溶剤に溶解する。この溶液を硝酸銀溶液で滴定し、電位差を測定する。変位点を求めることによってハライド含有量を求める。」とある。試験は綿密にして膨大な試料の検査が繰り返される。
日本工業規格の「JIS Z 8283 やに入りはんだ」では、フラックスの種類とフラックスの等級が表になっている。
フラックス系 |
主剤 |
活性成分 |
ふっ化物含有 |
1.樹脂系 |
1.ロジン |
1.無添加 |
F.(有) |
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a.変性ロジン |
2.アミンのハロゲン塩 |
N.(無) |
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2.合成樹脂 |
3.有機酸,アミン有機酸塩 |
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(注記) やに入りはんだに使用するフラックスの種類は、上表に従い、順次数字および記号によって表す。例えば、112N の意味は、1:フラックス系(1.樹脂系)、1:主剤(1.ロジン)、2:活性成分(2.アミンのハロゲン塩)およびN:ふっ化物含有[N.(無)]を示す。 |
記号 |
活性度 |
フラックス成分のハライド含有量 % (質量分率) |
AA |
低 |
0.1以下 |
A |
中 |
0.1を超え0.5以下 |
B |
高 |
0.5を超え1.0以下 |
塩素系のハライド含有量が低いほどフラックスとしての等級は上がりAA級を保持するが、作業効率として見た場合、どのような相違点が生じてしまうかは検討の余地がありそうだ。JIS
Z 3283 での「品質」項目には、次の点が定められている。
(a) ハンダおよびフラックスは規定の試験をしたとき、それぞれ品質が均一で、表面が滑らかで、かつ、使用上の有害な欠陥があってはならない。また、フラックスは、ハンダの長さの方向に一様に連続していることとする。
(b) ヤニ入りハンダのフラックス含有量は規定の試験をしたとき、フラックス含有量をF1~F6までの6区分(0.5以上1.5未満/1.5以上2.5未満/2.5以上3.5未満/3.5以上4.5未満/4.5以上5.5未満/5.5以上6.5未満)と定め、下表の基準に適合しなければならない。
フラックスの等級 |
AA |
A |
B |
水溶液比抵抗 Ωm |
1000以上 |
500以上 |
- |
ハライド含有量 %(質量分率) |
0.1以下 |
0.1を超え0.5以下 |
0.5を超え1.0以下 |
広がり率 % 鉛含有ハンダ
広がり率 % 鉛フリーハンダ |
75以上
65以上 |
80 以上
70 以上 |
80 以上
70 以上 |
銅板腐食 |
試験片はいずれも比較試験片と比較して腐食が大でないこと |
銅鏡腐食 |
試験片はいずれも比較試験片と比較して腐食が大でないこと |
乾燥度 |
試験片は粉末タルクがブラッシングによって容易に除去できること |
電圧印加耐湿性
マイグレーション |
拡大鏡で確認し、一方の極から他方の極に樹枝状の金属の生成が認められないこと |
- |
(注)
a. ハライド含有量の測定方法はJIS Z 3197 の 8.1.4.2 による。
b. 広がり率の測定方法は,JIS Z 3197 の 8.3.1.1 による。
c. フラックスの種類における構成材料の活性成分が無添加のものについては、適用しない。
d. 試験条件:条件 A 温度 40±2 ℃、相対湿度 90~95 %、168 時間
e. 試験条件:条件 B 温度 85±2 ℃、相対湿度 85~90 %、168 時間
f. 電圧印加耐湿性試験(マイグレーション試験)は、受渡当事者間の協定によって省略することができる。 |
製品に至るまでの「ヤニ入りハンダ」の試験方法が次に掲げられている。
(1)フラックス含有量試験および特性試験
・ヤニ入りハンダのフラックス含有量試験
・水溶液比抵抗試験
・ハライド系活性剤含有量試験
・ハンダ広がり法
・腐食試験
・乾燥度試験
・絶縁抵抗試験及び電圧印加耐湿性試験 (マイグレーション試験)
これらはいずれもJIS Z 3197 の規定に沿っていなければならない。
(2)外観試験 JIS Z 3283
(3)寸法試験 JIS B 7502 / JIS B 7507
これら試験において、ヤニ入りハンダは、品質ならびに寸法および許容差が、上記方法によって規定するところのものに適合しなければならない。ただし、受渡当事者間の協定によって一部の試験を省略することができる。そして、包装、製品の呼び方として4通りの表示例が記載されている。また、それら明確な表示が義務付けられている。それら表示例が下表となる。
Sn63Pb37/111N/F2/1.6/A |
H63A/111N/F2/1.6/A |
外径 フラックスの等級 |
外径 フラックスの等級 |
フラックス含有量の記号 |
フラックス含有量の記号 |
フラックスの種類 |
フラックスの種類 |
ハンダの種類の記号 |
ハンダの種類の記号 |
Sn96.5Ag3Cu0.5/112F/F3/1.0/B |
A30C5/112F/F3/1.0/B |
外径 フラックスの等級 |
外径 フラックスの等級 |
フラックス含有量の記号 |
フラックス含有量の記号 |
フラックスの種類 |
フラックスの種類 |
ハンダの種類の記号 |
ハンダの種類の記号 |
製品表示には、ヤニ入りハンダにおいて、枠巻きの場合は巻き枠の側面に、また、たば巻きの場合は、添付した荷札に、次の事項を明確に表示しなければならない。
(a) はんだの種類の記号
(b) フラックスの種類
(c) フラックス含有量の記号
(d) 寸法(外径)
(e) フラックスの等級
(f) 正味質量
(g) 製造業者名またはその略号
(h) 製造年月またはその略号
(i) 製造番号またはロット番号
大体以上が、JIS Z 3283 「やに入りはんだ」(Resin flux cored solders)の規定規格項目となる。
(参考資料)
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日本工業規格 JIS Z 3283「やに入りはんだ」(2006)
日本工業規格 JIS Z 3197「はんだ付用フラックス試験方法」(2012) |
フラックス等級AAの鉛フリーハンダはなぜ価格が高いのか
さて、わたしが今回疑問を抱いていたのには、二つの主な理由がある。わたし自らの勉強不足によるものなのだが、鉛フリーハンダの中にある樹脂系フラックスにも等級があり、AA級とA級とB級があることをあらためて知ったことだ。どこがどう違うのかは、上記のJIS
Z 3283 の「フラックスの特性」規定・規格に依ることがわかった。広がり率がAA級では65%以上なのに対して、A級とB級では70%以上の効力がある。鉛フリーハンダよりも鉛入りハンダのほうがもっと効力があり、AA級では75%以上、A級とB級では80%以上の広がり率となっている。本当は鉛入りハンダのほうが作業効率はいいのだが、国際環境規制に基づいて鉛使用が抑制されている現在、基板作業はどうしても鉛フリーハンダが優勢となる。
では、鉛フリーハンダを使用するにあたって、目的用途に応じて注意すべき点に着眼してみると、フラックス内に含まれるハライド含有量を見た場合、AA級では0.1%以下となっており、A級では0.1%~0.5%以下、B級では0.5%~1.0%以下とみなされているわけだが、この違いは活性度にもつながり、塩素による腐食度とも連鎖することによって、マイグレーションの発生時期を早めることにはならないかと推測してしまう。酸化してしまった金属腐食によるデンドライトの生成物とは別に、電界の影響で生じてしまうイオンマイグレーションの金属性枝状の生成が出てしまう確率を想定するならば、フラックス自体の構成成分によっては、広がり率の大きさと半田付けに要す時間率とを、使用目的によって使い分けるのもいいのかもしれない。フローかリフロー状態かにもよるだろうが、あるいは、仕事か趣味かによっても選択肢はあるように思える。
万が一、マイグレーションによって絶縁抵抗値が低下し、機器が故障してしまう最悪のことを考えれば、フラックスAA級がいいのか、少しでも濡れ性のよい広がり率を優先してA級を選ぶのか、それでも、そのどちらでもない高い活性度のB級を選ぶかは、用途次第になろうか。ただし、界面劣化や母材金属の溶解は活性度の高いフラックスに比例して短期間で脆弱化するだろう。短期間というより短時間かもしれない。鉛フリーハンダでも、一見、同じハンダ合金組成にみえる「Sn96.5%、Ag3%、Cu0.5%」であっても、フラックスの規格がJIS-AA級であるか、JIS-A級であるか、JIS-B級であるか、またフラックス含有量が3.5%といった表示があるかどうか、見定めておくことも大事だ。用途に応じて長い目で見た場合の信頼性は必要だろう。鉛フリーでさえあればいい、というのは目的用途の機器・基板次第ということになる。
フラックスの特性であるハライド含有量と再酸化をもたらす絶縁抵抗値の違いは、きわめて微少数値ながら、電圧印加耐湿性試験(マイグレーション試験)によっては、たとえ1/100、1/1000、いや、1/1億、1/10億であっても、半田付け後にやがて致命的なクラックが生じたことで、医療機器や航空機器類、また輸送用精密機器類に悪影響をもたらしかねない、とは絶対に言い切れないとするならば、何もこのようなしつこい耐久試験はないのではなかろうか。さらには、母材接合部分に破断を惹起させてしまうクリープ現象などは、あまり考えたくない事故にもつながるかもしれない。予期せぬ気圧や湿度環境下によっても想定外の事象を招くかもしれない。AIがもてはやされる今日の時代において、人は可能なかぎりの高度な技術を使い、解明できない事でも想像的躍進を果たしてゆく本能で生きられるわけだから、未来へはそれらの挑戦があらゆるものを織りまぜて続くのだろう。選択肢はすべて自らにあるといえる。
(案内 ・ 古川卓也)
(2018/07/11 ~ 2021/11/16)
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