プレシャス 感動の一枚 2019
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絵画のようで、絵画でない
吸い寄せられてしまう美しさとは、何だろう。2004年に発売された日本のPCゲーム『Fate/stay night』から始まった魅力のキャラクター、セイバーをかくもまったく別世界の登場人物としてグラフィック・アートにしてしまったWLOPとは何者なのか。『Fate』発売公開からまたたくまの10年、15年の時を経て、『Fate』シリーズはゲームからテレビアニメ、劇場アニメ、DVD・ブルーレイ化し、世界中のファンを虜にした。日本アニメのセイバーは従来通りにカッコよくてかわいいが、WLOPの描くセイバーはまったく異なった世界で誕生する。シリアスであり深い悲しみに覆い尽くされてゆく。暗く果てしない荒涼とした戦闘の世界で、ふと、ひとすじの光が少女のからだに温かく差し込む。銀箔に塗り込められた超合金の剣と甲冑のような配色は、前後の物語を封印して、いまは静寂な時間に包まれている刹那を作者は淡々と捉えてゆく。この一瞬の場面を描くのに、いったいどれほどの制作時間が費やされたのだろうか。人体の肌は写真のようにリアルで、うつむいた少女の顔の表情は切ないほどの美しさで描かれる。枯れた草原のなかで剣を大地に刺し、いっときの安息を得て風に靡かれている。日本アニメ『Fate/stay
night』(2006年DVD映像)とは全く異なる世界だが、構図・造形はほぼ同じスタイルを踏襲し、デッサンでアレンジされている。それはそれとして、別個のサーヴァントとしてのこの描かれたセイバーは、斬新なスタイルであり、プレシャス、感動の絵画一枚と対面したような、21世紀にふさわしい珠玉作品とみた。
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(2019/02/04) |
文・ 古川卓也 |
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