『ヒマラヤ杉に降る雪』(SNOW FALLING ON CEDARS)(1999米 127分)
(監督・脚本:スコット・ヒックス 原作:デビッド・グターソン 主演:イーサン・ホーク、工藤夕貴
文・古川卓也
字幕スーパーのレンタルビデオで映画を一生懸命追っていたら、現在(1954年)と過去(幼馴染みの頃から初恋に至り、やがて初々しい若い男女の恋愛関係に陥った頃までの期間)との二重写しの組立てでストーリーが進行しているのだと判って来る。アメリカ北西部の小島となっているが、あらためて世界地図を眺めたら、だいたい北海道かそれより少し以北あたりの緯度に位置するのだろうか。島の名前を憶えていないので、こんど日本語訳でビデオを借りて再確認するつもりだが、ずいぶん寒そうな土地での物語だった。物語というより、小さな漁村の島で起きた遺体発見事件をめぐっての展開と言ったほうがいいのだろう。
日系移民の家族がアメリカ北西部でまじめに働きながら居住していた背景や史実をわたしはあまり知らないが、第二次世界大戦の勃発によって、幼馴染みだったアメリカ少年のイシュマエル(ホーク)と日系二世の少女ハツエ(夕貴)との純愛が、戦争という悲劇のもとに米国の日本人迫害によって引き裂かれてゆく運命を描いたものであると同時に、やがて戦争が終わり復員したイシュマエルは、その後、新聞記者として、ある裁判の取材をすることとなり、その捕らえられた漁師の被告人カズオの妻が、実はハツエだったことに遭遇することとなり、更なる宿命を感じてしまうのだった。平和だった頃の二人の愛の回想と、その北西部で暮らし続けるハツエの第二の人生に襲いかかってしまった日系人への偏見を絡めて、事のなりゆきは法廷で映像を挿入しながら錯綜してゆく。
青年記者イシュマエルは、すでに結婚してしまっているハツエではあるが、かつての恋人との再会から彼女を何とか救おうとするのだった。本格的にその奇怪な事件の真相をさぐってゆくうちに、やがて次第に網にひっかかっていた死体と船との関係が明らかに見えて来ることにより、事件は無事に解決することになる。すでに終わってしまった恋愛関係に、イシュマエルのハツエへの無償の愛だけがむなしく夜の帳とともに消えてゆくが、裁判で無実を実証されたカズオの妻ハツエは、裁判が終了し閉廷になった後、闇に消えて行こうとする元恋人のイシュマエルをあわてて追い駆ける。彼を見つけて立ち止まり、彼の名前を呼び、「あなたを抱いていいですか?」とハツエは声をかける。そばに寄ったハツエは夫を助けてくれてありがとうと感謝しながら、ほんの束の間だけ、戦争前の頃の美しかった出逢いを想い、別れを偲びつつ、しっかりと抱擁し合い、再びハツエは無実が晴れた今の幸せな家族のもとに走って戻ってゆくのだった。愛情にあふれた音楽とともに映画は終わってしまう。
工藤夕貴のハリウッド映画本格的デビューという、彼女にとって記念碑的映画作品。実際すばらしい演技力であり、ここに至るまでの積年の苦労は人並ではなかったようだ。本当にいい映画だったと思う。彼女の日本人らしさが大変よく出ていて、映画作品のモノクローム的な雰囲気や冬景色と実にマッチした表情で個性的だった。工藤夕貴があらためて美人であることがよくわかった、といったら彼女に失礼だろうか。いや本当にいい味の映画で、ほろ苦かった。また彼女の次の映画が観たいと思う。ハリウッド映画であれ日本映画であれ、いい映画でお目にかかりたいものである。
(※アメリカ北西部のワシントン州、サン・ピエト゜ロ島が舞台でした。)
UNIVERSAL PICTURES (C) 1999
(2000/09/26)
文・古川卓也
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