『夜叉ヶ池』(1979年-2021年復刻版) 追記
今年2022年3月CSの衛星劇場で『夜叉ヶ池』 4Kデジタルリマスター版の2K放送を観たのだけれども、音質がわるくて「シネマ日記2022」には至らなかった。ブルーレイレコーダーにも録画して何度も確認してみたが、音がわるかった。原因はDOLBY
ATMOSもDTS:XもDTS HD マスターオーディオ5.1chの現代技術を全く取り入れていないのが原因であろう。日米映画技術の差はあまりに大きいようだ。せっかく42年振りの名作の復活が、あまりにもったいない気がする。映像においては申し分ないのに、音質が1979年当時のままでは、ブルーレイの意味もない気がする。今時こんな音源のままで良しとする製作側の気が知れない。
おそらく予算を先行させて、極上の映画魂を蹂躙しているようなものだ。1974年当時の映画『大地震』でさえ、2013年の復活版BDにはDTS HDマスターオーディオ5.1chを採用しているのに、経済大国の日本が損得勘定にいまだに振り回されているとは、実に情けない。いい邦画が現在までなかなか生まれて来ないのも無理もない。アニメ頼みの日本映画界は、もっと日本の実写映画の傑作に打ち込むべし。『夜叉ヶ池』は一流俳優陣たちの日本名画であり、世界を代表する泉鏡花の名作でもある。もっと自信を持ってブルーレイは製作すべし。音源ひとつで世界の眼は変わる。『夜叉ヶ池』の音楽担当だった冨田勲がまだ存命であったなら、こういう音源にはならなかったと思われる。存命のあいだに復刻してほしかった。
映画作品『夜叉ヶ池』に、もし冨田勲のシンセサイザー音楽世界に包まれていなかったら、この映画はここまで成功はしなかったであろう。この冨田勲の音楽世界を起用した篠田正浩監督の采配こそが、この映画の世界観をものにした真骨頂といえるのだ。ドビュッシーの『沈める寺』を映画館内に響かせた、あの時の音のひびきは43年経った今も忘れられない。当時27歳だった私は京都在住の放漫な暮らしをしていて、月に30本くらい映画館通いをしていたが、失業と転職を繰り返していた私は、ひたすら読書三昧と映画漬けに溺れていた。小説家になるために部屋にはテレビを置かず、昼間に肉体労働、夜は読書か音楽に浸っていたのである。暇さえあれば映画館でゴロゴロしていた。当時は1箇所の映画館で3本立てや2本立ての映画を繰り返していて、チケットを1枚買えば、朝から晩まで何回でも映画は鑑賞できた時代だった。今こそ考えられないことではあるが、そういうのんびりとした時代だった。
今回、CSの衛星劇場で放映された『夜叉ヶ池』 4Kデジタルリマスター版の2K放送は、当時映画館で体感した音よりもわるかったのはなぜか。もちろんオーディオ・ホームシアターを通して、そう感じたのである。映画『大地震』(1974年)も当時、京都の映画館で体感した。上映期間中、日にちをあけて5、6回観たような気がする。スクリーンの舞台の下に、最前列の観客席の前のほうに大型のスーパーウーファースピーカーを6個か8個くらい配置して、地震が起こると、それらのスピーカーが突如鳴りだし、映画館内は大地震に見舞われたような仕掛けがしてあって、それが何ともアトラクションっぽいのが面白くて今も記憶している。2011年の東日本大震災に見舞われた被災者には不見識かもしれないが、娯楽と災害の峻別はしていただきたい。あくまで映画作品に拘泥しての話である。今後とも日本がBDを製作するのであれば、是非ともDTS HD オーディオマスター5.1chくらいは装備していただきたい。絶品の極上名作『夜叉ヶ池』があまりにもったいない。
(2022/09/22)
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