映画『大地震』(1974)の音源を探る
ブルーレイディスク『大地震』(2013)で再現された2つの音源比較
映画『大地震』(1974米)のブルーレイディスクによる復刻版が出たのは昨年の2013年だが、このBDに5.1chサラウンド/DTS-HDマスターオーディオと、2.1chセンサラウンド/DTSという2つの英語音声が収録されていることは、映画『イントゥ・ザ・ストーム』の補記でも紹介したが、この2つのサウンドの魅力について語ってみたいと思う。つまり同じ映画を2回観たわけだが、どちら側の音響もすばらしい再生音質だったことは先に言っておきたい。無駄に2つの英語音声が収録されてはいなかったことは証明できる。なお、私が聴き比べたスピーカーは、本家本元のアメリカのマーティン・ローガン製である。左右に並んだSEQUELⅡの下部にあるスーパーウーファーがカギだったと言える。
図式でも説明したいと思うが、音質がマイルドでまろやかだったのはセンサラウンド方式のほうである。左右2chのアナログ風がうまくマッチングしたのだろう。映画そのものも古いが、スピーカーも古風ではある。だが、その古風な手作りスピーカーのマーティン・ローガン製の伝統技術は馬鹿にならない。左右の音域は180°から240°を超えてスピーカーパネルから音の球が飛び抜けて聞こえて来ることもある。コンデンサ型スピーカーなので、低中高域のフルレンジ音はパネルの前後にも音域が出るから、それが功を奏して、音の球がスピーカーの背後からパネルを抜けて前に躍り出して来るのだろう。ヌケがいいスピーカーとはこのことで、これを巧みに設計開発したメーカーも凄い技術といえる。そして、上下を織り成す高さ2メートルの音域空間では、スピーカー自体の身長が182センチほどあるために音の出所の位置が変化する。つまり、前後・左右・上下5メートルの音域立体キューブをスピーカーは完全に支配しているのだ。そもそも初めからそのキューブ内は立体音像でドルビー・アトモスの状態に等しかった。キューブ内の音響効果は絶大的な位相を発揮するが、液晶テレビ画面がまだ46型のために、これではまだまだホームシアターとは言い難いようにも思えるものの、10畳の空間で立方体5m角のキューブ内の映画鑑賞としては、分に合った楽しみ方とは思っている。3Dでの映画鑑賞は出来るだけテレビに近付いて2メートル以内で鑑賞はしているのだ。
『大地震』の2.1chセンサラウンド方式収録の音源は、地震が起きた時だけスーパーウーファーが地響きの低周波を押し出しており、これは実際に映画館で観た体感と酷似していた。ロサンゼルスの街を破壊してゆく大地震のクライマックス部分では、心地よい超低域サウンドがかなり長く続いて臨場感は最高潮に達する。この場面ではDTS-HDマスターオーディオ5.1chの音響とは微妙な違いを感じた。映画のマスター音源が1974年当時のものなので、無理矢理5.1chのデジタル再現をした感は否めない。頗る可能な現代技術なので、たとえ古い映画といえどもDTS-HDマスターオーディオ5.1chの音響技術はセンサラウンドよりも凌駕する理論なのである。だのに、なぜか、何かが微妙に異なるのである。本物の地震で体感する大地の揺れには、ある種の恐怖心が襲ってくるように、人間の聴覚には得体の知れないドーパミンの脳細胞も同時に噴出してくるようだ。動物や生き物の本能と違わない防衛本能が同時に起きるからだろう。その自然さがセンサラウンドでは大迫力となって現れるが、DTS-HDマスターオーディオ5.1chではやや高域音に振りまわされて、音質はきつい。もちろんスーパーウーファーからも振動が大迫力で伝わって来る。その様は過激すぎるほどだ。壊滅してゆく惨状の映像そのままに音響も過激となる。なお、ここではあくまで娯楽映画としてパニック映画として捉えてほしいので、映画における現代の音響技術に触れたいわけだから、あくまで2011年に実際に起きた東日本大震災の大惨事と同列には誤解してほしくはない。莫大な人命や津波で失われた大惨事への悔しさや無念さは、インターネット文学館の「PANDORA」で絶望的なほど書き疲れてしまったので今は勘弁してほしい。2011年の東日本大震災に見舞われた被災者には不見識かもしれないが、娯楽と災害の峻別はしていただきたい。あくまで映画作品に拘泥しての話である。
映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014)と
『トランスフォーマー/ロストエイジ』(2014)の驚異的音源
この2つの映画のブルーレイディスクには実に驚異的なサウンドがひそんでいた。『オール・ユー・ニード・イズ・キル』では、映画冒頭から、「今地震が・・・」と字幕スーパーに出るあたりで、滅多にないスーパーウーファー(上図の左右にあるもの)のコーン紙が激しく揺れ始める。これは耳に聞こえて来る低音と、低周波が発する時の動きである。部屋中を揺らす空気振動が生じている瞬間なのだ。瞭かに可聴する低音とは異なるもので、このわずか13秒間程度の短い空気振動が上部パネルのフルレンジの音域と共鳴し合って、美しい低音を奏でるようになっている。バスレフのダクトから空気が押し出されて、スーパーウーファーのコーン紙が小刻みに揺れる。やがて4秒間ほど激しく前後に揺れて、静かに止まる。映画で繰り返されるエイリアンとの死闘場面でもスーパーウーファーは激しく揺れる。まるでコントラバスの楽器をなまなましく超低音で聴いたり、地震の唸りを錯覚させるような働きがスーパーウーファーには仕組まれているようだ。これを最大限に発揮させるスピーカー設置の工夫も凝らしているので、この効果も意外に見逃せないのかもしれない。『オール・ユー・ニード・イズ・キル』の英語音声はDTS-HDマスター・オーディオ7.1chで収録されており、秘められた音源は出来るだけ逃さないように鑑賞したいとは思っているのだ。日本語吹替にしてしまうと、DVD音源のドルビー・デジタル5.1chとなり、スーパーウーファーからの低域は無くなり、ふやけた軽い音源に化けるのでガッカリしてしまうから、日本語吹替に選択はしたくない。日本語吹替はオーディオやホームシアターを通さないテレビのみでの鑑賞用のものとなっているようだ。
オーディオ・システムの設置の仕方としては、インテグレーテッドアンプAU-α907DRの下に厚み45mm程度の黒龍の大理石を置いている。電源部のわずかな振動や周辺のスピーカー音響振動からの共振を断ち切るためだ。コンクリートの部屋が揺れる錯覚にまで至るので、共振には要注意なのだ。また、スピーカーの下には1億年前のフズリナの化石がある天然の大理石を使用している。これに純正の尖ったスピーカー用支えの4つのスパイクが大理石に刺さっているような按配だ。縦長のスピーカーなので、線音源の垂直軸をぶらさないように工夫している。大理石の下には重くて堅牢な合板を敷いている。合板はさらにコンクリート部屋の基礎となる垂木に当たるまで深く突き刺した5本のインシュレーターで水平に支えてあり、がたつかないように固定してある。つまりスピーカーの振動は、実際は垂直方向へコンクリートにまで伝わることになる。だが、堅牢なビルの2階の一室で部屋の壁もぶ厚いから、隣りにまで音は伝わらない。隣りからの音も聞こえたことがない。周辺環境への音漏れがないのも以前から確認済みだ。安心のオーディオルームであり、防音効果も配慮しているのだ。
さて、映画『トランスフォーマー/ロストエイジ』(2014)に触れてみる。ブルーレイディスクに搭載されたドルビー・アトモスの音には大変興味があったので、ついにその時が来たかと早速鑑賞してみた。結論から言えば、BDに搭載収録されたドルビー・アトモスは、あきらかにDTS-HDマスター・オーディオ7.1chとは異なる音源だった。マーティン・ローガンの背丈の高いスピーカー効果もあって、音像がスピーカー手前の右上空からセンター奥へ抜けて行ったり、ステレオ効果に立体音像のメリハリが5mキューブ内でくっきりと楽しめるばかりでなく、音域がキューブの殻を破って球体のなかで音源が感じられるようになった。音の球が前後から現われるばかりではなくて、球体のゾーンのなかで鑑賞しているようななめらかな音質が聴かれるようになった。なめらか、という表現は、ナチュラルな音質という意味だ。切り裂く音は素直に切り裂く音で、爆発音は過激なまでに爆発してゆく粉飾しない自然な音で再現される。これはつまり正確で緻密な音をロケ各地の現場やスタジオなどでたくさんのマイクで集音した成果だろう。これらにCGエフェクトやVFXの画像処理を合わせるコンピューター操作が加味される具合のようだ。それも撮影機材のみならず高度な機材での集音マイクを使用していると思われる。DTS-HDマスター・オーディオ7.1chでは精巧な音の迫力にびっくりしていたが、ドルビー・アトモスではそれがさらに洗練されて丁寧でまろやかな、よりリアルな音源にまた一歩近づいた感が拭えない。上質なる迫力音とでも言うべきか。まして『トランスフォーマー/ロストエイジ』のような映画作品となると、闘いのシーンが多いので、繊細感のある激烈な大迫力音像と映像には息を呑むような臨場感に酔い痴れ、ついつい続けて観てしまう。そんなとき、しばしディスクを一旦停止して休むことができるのはBD鑑賞のいいところでもあり、映画とは違うところだ。映画館で字幕スーパー鑑賞すると、日本語文字を見逃せば解釈し損ねる場合もあるので、いくらドルビー・アトモス搭載の映画館とはいえ、せっかくの映画鑑賞も台無しになってしまうことにもなりかねない。
ブルーレイディスクにドルビー・アトモスが日本で最初に搭載されたのはBBC EARTH制作のドキュメンタリー映画『ネイチャー』(2014)だが、4Kデジタル撮影マスターを使用した3D・2D映像も見逃せない。他にジョニー・デップ主演の映画『トランセンデンス』もセル版ではドルビー・アトモスが採用されている。レンタル版はDolby
TrueHD 5.1chのみだ。いずれにせよ家庭鑑賞で面白くなったのは、DVDではなくBDのほうが断然楽しめる時代になって来たということだ。それは比例するかのように、映画自体の内容も向上して来ているように思われる。BDでの映画鑑賞は絶対的に英語音声にしないと作品の良さは100%伝わらない。すばらしい音質環境と映画俳優の生まの声や歌声に直接触れられる感動があるからだ。私が日本語吹替でも鑑賞する時は、『マレフィセント』(2014)のように音声が英語でも日本語でもDTS-HDマスター・オーディオ7.1chになっている作品である。ディズニーの最近の映画はどれもこんな感じで楽しめるようになっている。日本語吹替ではちゃんとしたプロの声優たちが演じている音声でないと鑑賞はしない。最近は圧倒的に英語音声でしか鑑賞しなくなった。せっかくの良質な映画作品が、タレントのような下手な声優によって幻滅することがしばしばあるからでもある。声優は翻訳されたセリフをしゃべればいいというものではない。その肉体や、演技者の持つ雰囲気やカリスマ性、男らしさや女らしさ、同じ情感を共有できる者でなければ、声優とは言い難い。顔やスタイルは関係ないが、その役者になりきれないようではダメな気がする。ある意味では声優も俳優も同じでなければならない点もある。
ブルーレイによる3D『トランスフォーマー/ロストエイジ』と3D『ネイチャー』については、次回追記してみたいところだ。わが家の46型TVはまだ4K対応ではないので、1920×1080pでの鑑賞だが、3D鑑賞には力を入れている。シネマサンシャイン下関での3Dドルビー・アトモス映画館鑑賞もして来たが、ブルーレイでの3D鑑賞も絶え間なくこれまでにいろいろと鑑賞して来た。次回はBDであらためてドルビー・アトモスの3D鑑賞による音源追求ということだ。個人レベルの趣味の粋を出ないだろうが、あるがままに自由に表現したいと思っている。
(2014/12/16)
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