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  2016 - 2017   映画のこと、絵画のこと、写真のこと


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リュック・ベッソン監督の超大作SF映画
『ヴァレリアン・アンド・ザ・シティ・オブ・ア・サウザンド・プラネッツ
(Valerian and the City of a Thousand Planets)』(2017)の予告編

言わずもがなリュック・ベッソン監督といえば、誰もが頷く旬な監督であることには間違いない。リュック・ベッソンが関わる作品は、とにかく面白い。大真面目なアクション、スタイリッシュなアクション、ハチャメチャにして無謀なカッコいいアクション、ユーモアも織り交ぜて世界中をロケにしてしまうイケてる名監督、フランス代表の巨匠とも言うべきか。代表作品はずらりと勢揃いしてしまう。今回、2017年7月ドイツ先行で公開開始となるSF映画の最新作『ヴァレリアン・アンド・ザ・シティ・オブ・ア・サウザンド・プラネッツ(Valerian and the City of a Thousand Planets)』(2017)は、1997年同監督製作の『フィフス・エレメント』を遥かに凌ぐリベンジ・マッチのようなものらしく、予告編を観てるだけでも手応え充分だ。SF映画にも数限りなくあるが、最近観た『キングコング:髑髏島の巨神』(2017)はなるほど迫力もあって汚くリアルではあったが、わたしは2005年版の『キング・コング』のほうが好き。キングコングの王道を行っていて美女と野獣のラブストーリーのみならず、細かい描写にも手が込んでいて、恐竜もいっぱい出るし、映像の構築と音響では2005年版のほうが上回っている。『スター・トレック BEYOND』(2016)も面白くはあったが、『ミュータント・ニンジャ・タートルズ:影(シャドウズ)』(2016)も実にユニークにして爽快なノンストップ・アクションアドベンジャーSF映画だ。『ターザン:REBORN』(2016)も『ジャングル・ブック』(2016)もいいが、『X-MEN:APOCALYPSE』(2016)も『インデペンデンス・デイ:RESURGENCE』(2016)もいいのだが、こんなにも次々と眼を瞠る新作がやって来ると、SF映画は最新映像技術次第ということになって、大方は度肝を抜くスクリーンに釘付けになってしまうことだろう。映画製作の予算次第でその格差は顕著に現われてしまう。逆にB級映画の放出にもつながってくるわけだ。

『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015)では、正直なところ、少しがっかりした。昔から『スター・ウォーズ』シリーズのファンであっただけに、小躍りして興奮共鳴したくなるほどの新鮮味はわたしには感じられなかった。懐かしい同じ登場人物が老けてしまい、同じキャラクター類、いわば同類嗜好の延長線上に代わり映えがしないように思えたのは、きっと自分も歳を取ってしまったからなのか。その意味では『インデペンデンス・デイ:RESURGENCE』は全く予想外の感動を得て大変感心した。まだ観ていない『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)がもうすぐレンタル開始なので楽しみにはしているのだが、いかに。かくもSF映画とは非日常映像の世界なので、これほど人を楽しませてくれるものはないが、リュック・ベッソン監督がジェームズ・キャメロン監督の『アバター』(2009)を超えられるかいなや、『ヴァレリアン・・・』への期待値はわたしには大きい。あの名作『レオン』(1994)や『ルーシー』(2014)、『トランスポーター』シリーズや『TAXi』シリーズ、『96時間』シリーズ、といった数々のアクション名品群は一流であり、『パリより愛をこめて』(2010)ではジョン・トラボルタの格上げにもつなげた。リーアム・ニーソンやジェイソン・ステイサムはまさに時の人、アクション名優として言を俟たず、あらゆる俳優陣を縦横無尽に駆使し名作に仕上げる手腕は超一級のスリル満点。一方で、色彩の異なるSF超大作『ヴァレリアン・・・』への波動は、公開されたばかりの予告編が何とも魅力をそそる。『ヴァレリアン・・・』オフィシャル・サイトと予告編をここに紹介しておく。

(2017/04/06)



エマ・ワトソン主演映画『美女と野獣』(2017)の予告編

さすがディズニー映画ともなれば、ここまで洗練されて来るのかと、早くも感動が入り混じるような予告編である。ベルを演じるエマ・ワトソン主演映画『美女と野獣』(2017年3月17日全米公開)の予告編が現在すでに公開されている。古めかしい置時計や燭台、紅茶ポットや紅茶茶碗といったそれらが喋って来る可愛らしいキャラクターも登場しながら、あやしい古城には怪物が。実はそれらは魔女によってそんな姿にされているわけだが、横柄で傲慢な王子が呪いをかけられてしまった禍の姿でもある。召使いたちも家財道具にされてしまい、バラの花がすべて散る前に「真実の愛」に巡り会わなければ、醜い獣のままの姿で一生を終える、という呪いなのだ。まさに子供向けのお伽話しなのだが、そんな野獣が生涯そのまま終えてゆく大人も多い昨今の時代であるから、ある意味、大人もこの映画は是非観るべしともいえるだろうか。予告編の音楽もいいが、わたしはこのページの下段にもかつて紹介した「エマが『美女と野獣』のベルになるメイキング・アート」に流れる音楽のほうが遥かに興味深い。この音楽の旋律は、今回の実写版『美女と野獣』のどこかの場面にも現われて来そうな予感もしている。どうだろうか。


(2016/11/25)



クリスティーヌの歌声を聴きながら   祈りを込めて

こんなにも辛い日々が来ようとは夢にも思わなかった。病室でみるみる痩せてゆく妻の姿を毎日ながめながら、私自身の胸中は対面のかけ声とは裏腹に、ずいぶん重苦しい。昨日やっと自分の体重が31キロで止まったよと言った家内の顔に笑顔はなく、頬もこけてしまった顔をみるのもつらい。何とかしてほしいと願って、いろんな病院をまわりながら、やっとここに辿り着いた国立大学付属病院のベットに横たわる妻の姿は、何ともあわれで、もの悲しく辛くて苦しい。妻の苦しみが自分の苦しみにもなっていることに、ここ最近痛切に感じている。他の病院での内視鏡検査で胃癌ですねとあっさりと言われ、そこの医師からの紹介状で入院することになった大学付属病院ではここ2週間今もずっと検査続きで、胃癌の疑いを精密に検証しながら日々点滴だけが続いている。妻の枯れ木のような細い両腕は点滴注射針で腫れ上がり、日々交互に射されながら妻はずっと痛みを我慢している。青あざがいたいたしい。お粥どころか食べ物らしい食べ物がまったく食べられない日々が半月以上も続いている。七転八倒の苦しみが今も続く。それ以前からお腹の調子が悪くなっていたので、時々胃薬を飲んでいたが、考えてみれば、1年前に私が心筋梗塞を起こして九死に一生を得ていたので、あの頃から私は妻に深い心痛を与えていたのかもしれない。病院にはそんな妻を病魔から何とか救い出してほしいと願う。

私に出来ることは何でもする。私は毎日午後3時か4時以降に妻の待つ病院へ出向く。熱くないすぐに飲める、ほどよい温かな緑茶をポットに淹れて、冷たいポカリスエットもポットに注いで、二つのポットを運んでゆく。必要なものがあればいつでも何でも持ち運ぶ。大学病院まで自宅から車で15分から20分くらいの距離だが、平日は商品出荷があるので、佐川急便なら午後1時頃に連絡して発送商品を取りに来てもらう。通常3時半頃までには取りに来てもらえるので助かる。ヤマト運輸での商品発送なら、先にヤマト運輸の宇部営業所厚南センターに立ち寄ってから病院へ出向く。自宅(オフィス)でヤマトの集荷を待っていたら遅くなるので、病院途中にヤマト営業所は位置するからその分早くて助かるのだ。商品荷物の送り状はヤマト専用のB2ソフトのラベル貼付なので、受付ではQRコードまたはバーコードを端末機で読み取り受付完了の小さな紙を受け取って終わりだから早い。現在のフルカワエレクトロンの事情を汲んでいただければ、そんな仕事状況ではあるけれども、夕方ネット店舗は不在でも通販の仕事はきちっとこなしているのでご安心していただきたい。そんな現在の通販事情を御報告をするために、当Webサイトの「Spring Campus」を追記更新しました。

病院での見舞いは午後8時までで、日々時間を工夫しながら効率よく動いているので、ご理解してくだされば誠に幸いです。さて、病室での話しに戻るのですが、いまの妻の唯一のなぐさめは、私が持っていったMDウォークマンのなかの音楽を枕元で聴くことのようです。10年以上も前に買って使用していたもので、容量は1GBしかありません。でも、音楽を聴くだけならこれで充分です。ソニー製でディスクはソニー専用のHi-MDです。当時収録したものをそのまま聴いています。曲はミュージカル映画『オペラ座の怪人』(2004年)、映画『ある日どこかで』(1980年)、映画『ラウ゛ェンダーの咲く庭で』(2004年)などが収録されていました。サウンド・トラック盤を収録したのではなく、当時、DVDで映画鑑賞した後、再度MDに収録するために、オーディオシステムのマーティン・ローガンのスピーカーを鳴らしながら高感度マイクで収録していたものでした。小型マイクスタンドを卓上に置いて、さながらホームシアターの音響空間のひびきを堪能するように息をひそめて集音していました。当時収録していたものが、こんな生きるか死ぬかの病室で役立とうとは思いもしませんでした。これらの映画は以前に妻と一緒に鑑賞して共に感銘していた作品だったので、のちのち喜んでくれるかなと思って病室に持っていったものでした。今では病室ですっかり手放せないものとなっています。

映画『オペラ座の怪人』では澄みきった声量のクリスティーヌ(エミー・ロッサム)の歌声が抜群の美しさで最高のものになっています。俳優でありながらかくもこうしてミュージカルもできるエミー・ロッサムは、この『オペラ座の怪人』で一躍華々しいブロードウェイ・ミュージカルとしても時の人に仕立てたことでしょう。映画『ある日どこかで』の作品を観たいと思ったきっかけは、フィギュアスケートでアシュリー・ワグナー選手がこの映画のすてきな音楽をバックに演技していたからでした。それ以来、私たち夫婦は今でもアシュリー・ワグナー選手のファンともなりました。フィギュアスケートの演技の選曲は、ある意味、選手を応援したくなる気持ちを高めるものなのかもしれません。クラシック曲よりも映画音楽を選択することは、ファン効果が高くなるはずです。映画『ラウ゛ェンダーの咲く庭で』をフィギュアスケートの演技に取り入れた浅田真央選手の選曲も、これがきっかけで映画を観ることになったのですが、このソロ・ヴァイオリンの演奏がまた実にドラマチックでいいんですね。これらの曲を俳優たちのセリフ入りでMDに収録したものですから、まるで映画場面を思い出すようになるのです。私たち共通の音楽嗜好が一致しているので、病室のベッドでこれらの音楽をヘッドホンで聴くと、少しは身体の痛みを忘れられるようなのです。

(2016/05/23)



エマが『美女と野獣』のベルになるメイキング・アート

2017年公開予定のディズニー映画『美女と野獣』の実写版にわれらが人気女優エマ・ワトソンまでもがついに主演登場して来るが、すでにYouTube予告編では130万回再生超えをしている。超楽しみの映画ではある。『美女と野獣』の実写版といえば、『ミッドナイト・イン・パリ』(2011)や『007スペクター』(2015)などでお馴染みのフランス人気女優レア・セドゥの『美女と野獣』(2014)を観たばかりですぐにそれを思い起こしてしまうが、次なるエマ登場での『美女と野獣』(2017)実写版では、一体どんな作品で鑑賞することになるのだろうか。長い長い「ハリ・ポタ」シリーズですっかり大人の女性になってしまったエマ・ワトソンは、世界の誰もが認めるエレガントさで知的な魅力の英文学学士号取得の25歳だ。そんなエマの『美女と野獣』実写版に視覚効果ビジュアル・エフェクトなど部門担当するPrateek Mathurさんの、主人公ベルを扮するエマ・メイキングのコンセプト・アート作業公開動画がすごい。バックグランドに流れるこの映画のサウンド・トラックなのか、動画とも相俟っており、とてもすばらしい音楽とマッチングしているので、ここに取り上げてみた。生きるとは、楽しみを失わないこと。人に夢を与える仕事は本当にすばらしい。

Making of Belle Poster (2017 Beauty and the Beast concept art)

Emma Watson as BELLE in Beauty and the Beast

I have created this concept art, with respect to Disney who have signed Emma Watson for the upcoming movie adaptation of Beauty and the Beast. I enjoy producing some artistic work, as well as filming ‘making of artwork’ videos which show my process and these can be shared for educational purposes. My videos can help new artists to quickly view how graphics can be produced and to understand that there are million ways to explore your software, your skills, your style, your imagination and even your career. I am always here to share my experience with the world. (The concept art was designed using Emma Watson photograph from the event, the Elle Style Awards in February 2014 taken by Joel Ryan/Invision/AP)

Awards & Honors:
2015 - Royal Opera House - Culture Change programme
2014-15 Outstanding Achievement Award
2014 Studentship Award
2014 Vice Chancellor's Awards
2013-14 Certificate of Recognition
2013 Outstanding Achievement Award
2013 Bedfordshire Edge Award
more..

Free Download large size poster at : tinyurl.com/o7zonnv
Concept art of Beauty and the Beast 2016 : design by Prateek Mathur - imdb.com/name/nm5723699
Portfolio Website : Animation.life
Blog : animation.life/matte-painting/emma-watson-beauty-beast/
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(2016/03/29)



ポール・マルリーの洪水

シスレーが描いた「ポール・マルリーの洪水」について。19世紀末、一貫して印象派画家の画風を遺していったシスレーは、1876年に起きた雪解け水によるポール・マルリー村での大洪水を何のためらいもなく絵画作品に仕上げていった。セーヌ川沿いにあるポール・マルリー村は、1874年からシスレーが移り棲んでいた小高い丘の村マルリー・ル・ロワから数キロ先ほど下がった近い場所で、シスレーはあるがままの自然災害の風景を、画家としての彼の眼に映ったままの主題で描き上げていった。水没してしまった光景に眼を配らせ、災害を自然のままに受け容れ、どんよりとした空と水に浸かった木々と建物と、そして小舟に立ち尽くす人々などを、あるがままにお気に入りの光と色彩のタッチで描いている。建物の重厚な青銅葺き屋根の色といい、光った水面は漣を立て、淡く鈍く明るめの曇天の空が水没した村をいとも穏やかに覆いかぶさっているではないか。この静寂な心象のモチーフとは、いったい何なのか。ベージュと小麦色の建物の壁のコントラストは、水没した以上に芸術的ではないだろうか。建物の影が水面に映るほど、水はきれいなのか。豊かな配色にはおどろくばかりだが、絵のなかにある画家の魂は、遠くを見据える平安の想いも感じられる。平安に生きることの難しさの逆説を暗示しているかにも思えてしまう。1899年亡くなるまで、ついにフランスの市民権を得ることが叶わなかったアルフレッド・シスレーは、生前どんな逆境にもめげず、フランスの地を愛していたことだけは確かなようだ。絵はそう語っている。

Flood at Port-Marly  Alfred Sisley
1876年 ; Oil on canvas, 50 x 61 cm; Musee des Beaux-Arts, Rouen

(2016/03/25)


アルフレッド・シスレー

印象派画家シスレー、19世紀後半のフランス画家アルフレッド・シスレー。イギリス人両親のもとパリで生まれたシスレー。1839年10月30日生誕し1899年1月29日59歳で死没した画家である。1870年に起きた普仏戦争は1年くらいで終息しているが、戦争の影響は画家に経済的困窮の打撃を与えてしまったが、彼の作風は初期の頃からさほどに変わっていないように見受けられる。画風は作者のスピリットであって、普仏戦争の根幹を揺るがす発端がそもそもスペイン王位継承問題に端を発しており、常の世も権力争いと欺瞞画策の元に煽動された民衆が犠牲を蒙るが、シスレーの絵画を鑑賞していると、空や水辺ののどかな風景だけが滔々としていて、いつも穏やかな気持ちにさせられるから、上流階級や世俗の騒乱とは距離を置いているのが実に和やかで、とてもいい。

下の絵はそんなシスレーが1872年に描いた「ヴィルヌーヴ・ラ・ガレンヌの橋」である。ヴィルヌーヴ・ラ・ガレンヌはパリの街から北へ10キロと離れていないセーヌ川左岸地区の町。なお、原画はニューヨークのメトロポリタン美術館が所蔵していて、実際の色合いはもっと地味で暗い鼠色のトーンが覆っているようだから、Web用に私が勝手に配色を明るめにした。シスレーの憂鬱に追い詰められた時代の暗い気持ちを払拭したかった。油絵の具にさえ困窮していたであろう当時のシスレーは、本当はこんな明るい風景が描きたかったのではなかろうか。パリ在住のウジェニー・レクーゼク(1834年-1898年)とのあいだにもうけた二人の子供はまだ5歳の息子と3歳の娘で、プロレタリアートを掲げるパリ・コミューンを避けながら家族を守ろうとしていたシスレーは転々と移住しては安息の地を求めていたのであろう。絹の貿易商で財を成して裕福だった父親からの庇護は、普仏戦争で父の破産を以ってすっかり無くなり、敵兵に見つかった彼は自分の住居や財産をすっかり失くしてしまったようだ。残された家族の命だけを唯一の救いとしていたのだろうか。

ブージヴァルからヴォワザン、アルジャントゥイユからまたブージヴァル、ポール・マルリ、そして1980年代にセーヌ川の支流のひとつロワン川沿いのモレ・シュル・ロワンの地に移住するが、ここが最後の終の棲家となっている。シスレーは若い時にロンドンよりもパリを選んでしまったがゆえに、父方の商売通よりも芸術への茨の道を歩むことになるのだが、揺るぎない印象派の画風を全うしていったスピリッツは、さぞかし苦難の連続であったに違いない。パートナーのウジェニーとイギリスで婚姻届けを出したのが1897年8月というから、シスレー57歳の時だ。妻ウジェニーはシスレーが死没する数ヶ月前に癌に冒されて病没しているから、まるで後を追うようにシスレーは亡くなっていることになる。シスレーも癌で病没とのことらしいが、シスレーは喉頭癌で、ウジェニーは何の癌だったのだろう。癌は今でも治療が難しいが、昨今のめざましい医療技術の進歩のことを思えば、当時のシスレーの時代では生死観の克服が現代とはおよそかけ離れた厳粛なものだったろう。

ああ、この長閑な風景画には、シスレーのどんな思いが込められていたのだろうか。恬淡と広がる青空と白い雲のただよいは、あざやかな二階建ての美しい家の白壁とも映えて、背後の森かげにはすっくと立った大きな樹々が平和に見える。手前の川ではボートを浮かべた3人の姿があるが、一人は紳士のように突っ立っている。他の二人は婦人なのか、日よけの飾り帽子を被って土手の向こう側の美しい家並みを眺めている。暖炉のある重厚な家造りなのだろう。煙突さえ立派に見えてしまう。橋かげの下では漁夫の姿なのか、二人が腰をかがめて話しているようだ。網を載せたような小舟や、白い木舟がいくつも見える。川の水面もきれいなのか、橋かげや土堤の緑を映し、青空の青も薄く映している。そして、風情ただよう石造りの橋が見事だ。ヴィルヌーヴ・ラ・ガレンヌの橋は、幸せを渡してゆく橋なのかもしれない。なんて素敵な風景画だろう。温かな人間のこころをそのまま反映しているではないか。

(2016/03/23)


Bridge at Villeneuve-la-Garenne  Alfred Sisley
1872年 ; Oil on canvas, 49.5 x 65.4 cm; Metropolitan Museum of Art, New York
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文・ 古川卓也




制作・著作 フルカワエレクトロン

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