した。地面からニメートルくらいの高さだった。寿三郎は白梅を背負って、強健な両足で地面に踏ん張り、見事に着地した。白梅は一瞬気を失っていたが、無事だった。よもぎの最初の飛行の時と同じだった。その時も寿三郎はよもぎを背負って着地したのだった。「よく飛んだな。偉いぞ、白梅。足は痛くないか?」と寿三郎が訊くと、「うん。大丈夫。お父さん、うまく飛べなかったわ。ごめんなさい」と白梅は哭きながら寿三郎の羽にしがみついた。 「お前はちゃんとまっすぐに羽を広げていたぞ。うまく飛ぶより、空中に飛び出したお前の勇気が何より大事なのさ。勇気さえありゃ、森で生きてゆけるからな。いつか人間たちの住宅街にも連れて行ってやるよ。森は食い物が少なくなったからなあ。アキラとナナは、もう人間たちが食べ残した物を見つけては食べてるがな。人間は美味しい物しか食べないみたいだ」 「そんなに美味しいの?」と白梅が訊くと、寿三郎は急にゲラゲラと笑い始めた。 そこへハルも飛んで来て近付くと、「何がそんなにおかしいのかしら」とハルは寿三郎の顔を覗き込んで言った。「人間が食べる物の味を知ったら、やめられなくなるって話しを白梅にしてたところだ」と寿三郎が言うと、「まあ。そんな恐ろしいことをこの子に言ってはダメですよ、お父さん」とハルは白梅の体を心配しながら言った。すると白梅が「きのう食べた木の実は美味しかったわ、お母さん」と言いながら寿三郎の顔も覗き込んだ。やがて、遠くに見える町並にイルミネーションのツリーが次第に輝いて見えるようになった。 |
( 16 ) クリスマス・キャロル < 2 > |
短編小説集『ブルーベリーの王子さま』 (2020/12/25) |ホーム| |