の姿を見ているうちに、元カノの顔も目に浮かんで来た。
 旦那は要らないけど、子供は欲しい、と言ってた元カノの言葉を思い出して、夏雄のことが無性にいたたまれなくなってしまった。ごく普通に健やかに育っている五歳の夏雄を、夫の恐ろしい額の借金で私に手放し託すなんて、想像もしないような借金地獄に苛まれている元カノのちょっとした軽率さから、おそらく旦那とも離婚して、残された娘二人とどうやって生きてゆくのか案じもしたが、容易に元の鞘に戻らないのが男と女の関係である。
「なっちぃ。お昼ごはん食べたら、あとで、そこら辺の川原で遊ぼっか?」と私は言った。
「うん。あそびたーい」と夏雄はすっかり元気な声で明るく返事をしてくれた。


 橋下の広い美しい乾いた川原に座って、私は夏雄に河童の伝説を話した。
「昔々、梓川というたいそう美しい川があってな、つまり、この川なんだけど、河童の親子が五人住んでいたんだ」と私が話し始めると、
「かっぱって、なーに?」と夏雄が聞いた。
「河童ってねえ、頭に皿があって、皿じやねえか。つまり、頭のてっぺんが大きな禿げ頭になってるんだ」と私が説明し始めると、夏雄はゲラゲラと笑った。
「嘴はアヒルみたいに、とんがってるし」と私は両拳を丸めて
         ( 26 )       おいちぃ < 10 >
短編小説集『ブルーベリーの王子さま』

(2021/01/12)

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