口の前にくっつけて見せた。 「まあ、アヒルよりもでっかいくちばしだな」 「ボク、アヒル見たことないけど、絵本で知ってる」 「頭は大ハゲ、嘴は大きくて長いやつ、尖った手足にはヒレがあるんだ。正面から見たらカエルの腹みたいに白くて、いや、蛙というより、ありゃタヌキの腹だな」と私は説明した。 「タヌキも絵本で見たことあるよ」と夏雄。 「まあ、タヌキの腹みたいなもんだけど、タヌキは陸でしか生きられないだろ。河童はな、この目の前の川の中に住んでるんだよ。すいすいと泳いで、川魚を食べてるんだ。水生動物なんだけど、つまり水の中で生きる生き物でね、時々、川が薄暗くなると、ひょっこり水面から禿げ頭の顔を出すんだよ。先に禿げ頭だな、そして、ゆっくりと顔を出し、ギョロっとした眼で周囲を見渡すんだ。不気味な、こわーい目ん玉で、ギョロだな。ギョロギョロじゃねえぞ。ギョロが一回。頭を撫で撫でしてやったら、ぬるぬるだよねえ。おまけに臭いのなんのって、食べた生魚の匂いかもな。なっちぃ、河童をいちど見てみないか?」 「やんだ、気持ち悪いもん」と夏雄。 「じゃあ、河童の話はこれくらいにしておくか」と私はアイスクリームが食べたくなって、 「アイスクリーム食べに行こっか?」と私は夏雄を誘った。 「いい。ねえ、カッパは見たくないけど、水からおめめ出したら、次はどうなるの?」と夏雄が訊くので、 「まわりに誰もいないのが判ったら、水の中からゆっくりと立 |
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短編小説集『ブルーベリーの王子さま』 (2021/01/12) |ホーム| |