ち上がって、川岸までゆっくりと歩いて来るんだよ」と私は河童の話を続けた。 「パパの顔、こわい」と夏雄が言うので、ふと私の顔が知らぬ間にぬるぬるとした河童の顔になっているのに気がついて、いきなりふやけた表情で作り笑いを浮かべた。すると、 「それ、カッパだよ。カッパの顔、やだ」と夏雄が言うので、私もちょっと調子に乗り過ぎたと思い、元の表情に戻した。 「それからどうなるの?」と夏雄が訊くので、 「それからどうなるのかって、まわりが暗くなるとね、夜陰に紛れて人間みたいに歩き出すんだ」と私は話を続けた。 「やいんって、なーに?」と夏雄が訊くので、 「キャイーンじゃないぞ。ヤイーンだ。ヤイーンじゃないな、ヤイン。あたりが暗くなるのを利用して、小さな人間の子供を探し始めるんだよ」 「どうして?」 「自分よりも弱そうな子供を捕まえて、川の中に引きずり込んじゃう。恐ろしい怪物だよねえ。今は昼間だから現れないけど、夕方になったら出て来るかもしれないから、なっちぃも薄暗くなる前におうちに帰らないとな」と私は河童の伝説を語り終えた。 「どうして川の中に連れてゆこうとするの、どうして?」 「それはね、大人よりも子供のほうが美味しいからさ」 「えっ。子供食べちゃうの? カッパって、人を食べちゃうんだ」と夏雄は目を丸くして言った。 「人間の子供を食べるのは朝飯前なんだよ。屁の河童って、よ |
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短編小説集『ブルーベリーの王子さま』 (2021/01/12) |ホーム| |