な革靴をもらったのも事実で、藤が丘から高知の足摺岬まで短文で纏めているが、十二月の足摺岬で遭遇した崖の道端の花々に蜜を吸っている蜜蜂の姿を見て、とても感動したことをよく憶えている。日本列島に沿って太平洋を北上する黒潮の暖流が崖の上に花々を咲かせ、蜜蜂が花々に寄り添っているのだ。とても十二月の冬とは思えなかったのが印象的だった。
『青木ヶ原』は自分の車で富士山に行った際、富士五湖にも立ち寄り、自分の足で停めた車や白いガードレールが見えるまで樹海の奥まで入っていったことがある。おかしかったのは、その後、樹海から出て湖畔めぐりをしようと途中で道路脇の広い空地に車を停めて昼飯のパンを食べていたら、パトカーがやって来て、私を取り調べ始めたことだった。「トランクを開けてください」だの、「最近、自殺者がよく来られるので」とか何とかで、よほど私の姿は怪しかったのだろう。私には何の心当たりもないので、警察官はその後去ったが、トランク内の旅行バッグの中身まで調べられるとは、こんなことは後にも先にも私の人生には一度もない。この奇怪な職務質問にも驚いたが、この記憶は一生消えず心底まいった。私はよほど自殺しそうな者に見えたに違いない。松本清張の小説の舞台を、自分でも歩いてみたいだけだったのだが、当時の私の風貌はそんな青二才にみえていたのだろう。

『姫萩』は詩人の金子光晴を、私が勝手に主人公のモデルにした。生前、詩人のお宅にお邪魔をして、小さな書斎に通されたとき、部屋に置いてあった花の油絵が無造作に畳の上に置いて
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短編小説集『ブルーベリーの王子さま』

(2021/01/18)

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