あり、壁に立て掛けられているのをヒントにした。先生が最も好きな花は、雑誌社の取材で姫萩とのことだったので、いつかそんな詩人の小説を書いてみたいと思っていたわけである。小説の舞台は晩年住んでおられた東京の三鷹市か武蔵野市か、私が学生時代に住んでいた井之頭の下宿から歩いて小一時間くらいの場所ではなかったかと思う。先に電話をして、大学ノートに自分の書いた詩を評価してもらいに歩いていったのだから、そのくらいの距離ではなかったかと思われる。厚かましい若造が書いた詩のいくつかを読んで頂き、「ひとり」という作品を褒めて頂いた。私が二十一歳の時である。冬の日のわずかな時間ではあったが、詩人との思い出は尽きない。
『花』に出て来る灯台は、こちら山口県の角島灯台を思い浮かべて使った。女子プロレスラーの木村花さんに哀悼を捧げた作品である。
『湖月』に出て来る滋賀刑務所には、昇降機リフトの仕事で何度も行っていた。囚人が作る調理場のリフト点検だった。昇降機全般の保守点検には、エレベーターやエスカレーターだけでなく、調理場のリフト等もあったのである。西本願寺のリフト点検もしたことがある。通常、リフトのカゴには食材や料理などを一階から五階まで運んだりするものだが、私は狭いそのリフトのカゴの中に乗ったりしなければならないこともあって、閉所恐怖症ではないが、何かトラブルが生じて途中で停止でもしたらと思うと、やはり気持ち悪かった。カゴを吊っている鋼鉄ワイヤーは直径八ミリも無かったような細さだった。保守点検は必ず二人で作業するので、そういうトラブルに巻き込まれ
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短編小説集『ブルーベリーの王子さま』

(2021/01/18)

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