がよぎった。 「なあ、夏雄ちゃん。ユウジパパはキミのこと、何て呼んでたの? なっちゃんとか、それとも」と私が訊くと、夏雄は平坦な物言いで「コーラ」と答えた。 「コーラ? コカ・コーラのコーラかい?」と確かめると、 「ボクの背中、カメのコーラみたいなんだって」と夏雄は笑いながら言った。 亀の甲羅? 背中が亀の甲羅とはどういう意味なのか、私は唖然となって解釈しかねた。しかし、だんだん夏雄の猫背が気にかかり、ハッとなった。それにしても、わが子の背中が亀の甲羅に似ているからといって、コーラと愛称するなんて、実にけしからんと思い腹ただしくなった。やはり元カノの言うように、ユウジの本当の子供ではないのかもしれない。確かに別れて半年で出産しているのはおかしい。正確に計算すれば半年と半月くらいで出産しており、未熟児でもなかったのも確かだった。自分の本当の子でないにしても、小さな子供をそんなふうに揶揄して呼ぶなんて、冷たい感情を浴びせられて来たのかと思うと、夏雄がますます不愍に思えた。 七月の上高地は本当に涼しくて気持ちよかった。大きいバスターミナルの駐車場に自分の車も停めて、そこから私と夏雄は一緒に奥の林道を歩くことにした。天気は雲一つない青空で、梓川の水は川底の石がすべて見えるくらい透明だった。わりと深い川で、少し蛇行した浅い所では流れる水の音が清らかに |
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短編小説集『ブルーベリーの王子さま』 (2021/01/12) |ホーム| |