「ほう。なかなか旨い団子でござるよな」と言いながら、この柚子味噌風味の珍味なる出会いにあらためて感心した。これも信州名物なのだろうか、目立たない場所でこのようなものがあろうとは、夏雄がまたどうしてこれを目ざとく見つけたのか不思議だった。
「うまいだんごでござるよな」と夏雄も真似て言った。
「はははっ。うまいでござるか」と私が笑うと、
「ござるござる」と夏雄も団子を頬張りながら笑い転げた。
「よし。お茶を持って来るから、待ってろ。オレの団子、盗られないように見張ってろよ」と私は店内に戻ってお茶を探した。相変わらず夏の上高地は避暑を求めて人が多かった。


 河童橋からの眺めはいつ来ても相変わらず最高のロケーションだった。大学生の時や社会人になってからも何度か足を運んで来た上高地だったが、今回の旅は特別な旅となっていた。夏雄と元カノの話を聞いていたら、夏雄は生まれてこの方、自分の町からまだ一歩も出たことがないようだったので、実子か養子か施設に預けるか今後の手続きはさておいて、とりあえず素晴らしい景色を夏雄に見せたかったのである。
「どうだ、この景色、すごいだろう」と私は夏雄の手を握ったまま、河童橋の上から穂高連峰のロケーションを夏雄に見せてやった。吊り橋の手摺の下から絶景を恐る恐る覗き込んでいる夏雄は、梓川の水の流れが気になるようで、五メートルくらいの高さは恐怖だったかもしれない。
         ( 24 )       おいちぃ < 8 >
短編小説集『ブルーベリーの王子さま』

(2021/01/12)

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