コンパクトでオシャレなオーディオ機器が置いてあり、曲はそこから鳴っていた。アンドレ・ギャニオンの「インプレッションズ」と、ケニー・ドリュー・トリオの「エバーグリーン~今は夢」のCDアルバム二枚が無造作に重ねてある。 午後一時頃が過ぎると、結奈が鍋に残っているシチューをおかわりした。伊津子はキッチンで少し温めてから、結奈の器に注いだ。菜々実と蕗子もおかわりしたが、結奈の分しかもう残っていなかったので、二人が残念がると、 「シチューは前菜よ。本番はこれからなんだから」と伊津子は言って、結奈が美味しそうに食べてる様子を嬉しそうにじっと眺めた。三人から眺められているのが気になるのか、結奈が急いで食べようとすると、「ゆっくりお食べ」と伊津子は笑顔のまま言った。 「ねえ、本番っていうことは、まだ何かあるの?」と蕗子が訊くと、 「あなたたちのために、スペシャルを用意したの」と伊津子は言った。 「じゃあみんな待ってて。わたし、お茶を淹れるから」と伊津子は言いながら急須に湯を注ぎ始めた。 蕗子は三つのショコアールマニャックの箱を開けて中身を取り出すと、テーブルの真ん中にそれらの四角いキャンドルを寄せて、その一つだけに火を灯した。伊津子は大倉陶園の白い皿を四枚それぞれ客人の前に並べて、宇治茶の熱湯玉露をいびつな湯吞に注ぐと、皿の横に置いた。そして、ナプキンの上にオシャレなノリタケのナイフとフォークとスプーンをそれぞれの |
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短編小説集『ブルーベリーの王子さま』 (2021/02/10) |ホーム| |