前に並べた。
「よければ、スペシャルな手作りチョコ、お披露目するね」と伊津子は言いながら、冷蔵庫から大きなタッパーを取り出し、電子レンジのオーブンでショコラフォンデュを二個ずつ順番にセットした。やがて電子レンジがチーンと鳴って温まると、ケーキトングで一つ一つ取っては各自の皿に載せていった。
「ゆなさん、熱いうちに召し上がれ」と伊津子が丁寧に言うと、結奈は真っ先に飛びついた。中央にナイフを入れて生地を切ると、とろりとしたチョコが中からあふれ出してきた。そして四人のお皿にそれぞれ配り終えると、
「さあみんな、存分に召し上がれ」と伊津子は笑みを浮かべて促した。伊津子も椅子に座って、目の前の柔らかいショコラフォンデュにナイフを入れた。
 しばらくすると、あたりにほのかなブランデーの香りがテーブルに漂いはじめた。黒い箱に溶け込んだショコラフォンデュ似立てのキャンドルから、最高級グランクリュカカオの名品がアルマニャックと交わった深い香りを演出し、有無を言わさず物静かにしっとりと刺激を与え始めた。二重の舌触りを誘発させてしまう恍惚の瞬間は、たちどころに体内に滴り落ちて広まっていった。まさかそこに、高貴さと卑賤なコクが絡み合っていようとは思えぬ出来栄えだった。
 伊津子の手作りショコラフォンデュには、これまた秘密の隠し味があった。生クリームとブランデーのナポレオンを少々入れた鍋に、手頃で安価なミルクチョコレートを二枚ほど入れて中火で加熱し、シンプルに溶かして混ぜたものだった。盛り付
         ( 46 )       バレンタイン < 11 >
短編小説集『ブルーベリーの王子さま』

(2021/02/10)

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