けには、皮をむいて薄く半月切りにしたキューイと、一口サイズのバナナ、お菓子のマシュマロを各数個だけ可愛く添えたものだった。
 陶酔してしまった甘味な時間は、瞬く間に昼下がりの時刻を奪い、バレンタインの概念を四人ともそれぞれが打ち抜いていった。ムードと味を占めてしまった味覚に罪悪感はまったく無かったが、この世の中には知らなくてよい事もあるのだと、蕗子はふと思った。
 この日のバレンタイン女子会は、夕方まで続いた。
「いっちゃん。来年もまたここで、女子だけのバレンタイン復活祭をしない?」と蕗子が言うと、
「そうね。今度は質素な復活祭でもいいんじゃない」と伊津子は応えた。
「早瀬さんはすでに結婚してるから、無理かもしれませんね」と結奈が言うと、
「妊娠してなかったら必ず来るから、連絡はしなさいよ」と菜々実も応じた。
 この年の彼女たちのバレンタイン復活祭は、和やかに幕を閉じた。二月十四日は女性から男性に贈るバレンタインデーだったが、見栄を張って幾つもチョコを買う楽しみは、最早彼女たちには微塵もなかった。チョコは愛を告白するためでも、義理を果たすものでもなくなっていた。美味しいものを食べてエンジョイし、心が通う者にだけそっと手渡すチョコに時代は変貌しつつあるようだった。ショコラの形には、人を惑わす魔法があるのかもしれない。(完)
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短編小説集『ブルーベリーの王子さま』

(2021/02/10)

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