かべながら言った。 「いっちゃんは恐るべし女ね」と蕗子は、感心しながら伊津子の顔を覗き込んだ。 「どこまで付き合ったの?」と蕗子は訊いた。 「それなりにね。義理チョコのコツは、安くても三十個ぜーんぶ違うものを揃えていたから、同じ物を配らないことが秘訣かしら」と伊津子の説明。 「ふうーん、そうなんだ。義理チョコにも存在感はあるんだ。で、誰と、どこまで、行ったのよ? ちゃんと教えなさい。誰にも言わないから」と蕗子。 すると、伊津子はクスクスと笑いながら、 「今年は、あなたにもショコラあげるね」と伊津子は話を逸らした。 「いい。要らない。いっちゃん、変じゃない」と蕗子。 「男性だけにチョコ渡すより、わたしね、気が付いたのよ。たくさん義理チョコ配るよりもね、大切な人に差し上げたいなって、思うようになったの」と伊津子は言いながら、 「数じゃないのよねえ。性別なんかでもなくて、ううん、年齢でもなくて、子供からお年寄りまで、大切な人たちにちょっとでもご挨拶変わりの贈り物がしたいなって、この頃バレンタインデーは、そんなふうに思ってるの」と、悟りを開いたお坊さまのように続けて言った。 「へええ、プレイガールのいっちゃんも、ついにそこまで境地を開いたのかあ」と蕗子は言いながら、 「じゃあ、仕方がない。いっちゃんから特大のチョコもらって |
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短編小説集『ブルーベリーの王子さま』 (2021/02/08) |ホーム| |