やろう」と返事をした。 「じゃあ、わたしもいっちゃんにジャン=ポール・エヴァンで特別なショコラを買って進ぜようぞ」と蕗子も応えた。 「かたじけないのお。そちはわらわにそのようなもったいないものを進ぜるというのかえ? わしはそこらのトリュフでいいのじゃよ」と伊津子が言うと、 「何を申しておる。トリュフなんぞと言わずに、ショコアールマニャックを手提げして、うぬのマンションまで参るでござれるよ。お茶の一杯も出してくりゃれい」と蕗子は言った。 「ちと、狭いうちじゃが、十四日が過ぎたら、みんなで打ち上げじゃの」と伊津子。 「恒例のバレンタインも、終わってからが楽しみじゃな、伊津殿」と蕗子は笑った。 二〇一九年二月十六日土曜日の正午に、伊津子のマンションには四人が集まっていた。バレンタインデー女子会と称して、四人だけの事後報告とチョコ審査を兼ねた親睦会をひらいた。 「まず、そこのお若いミルク女史に報告をお願いしたい」と伊津子が切り出した。 「はい、先輩。無事に義理チョコを全員に配り、滞りなく済ませ、本命にも告白して、見事ふられました」と宮野結奈はみんなに報告をした。 「義理チョコ全員とは、何人に配ったのじゃ?」と伊津子が結奈に訊くと、 |
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短編小説集『ブルーベリーの王子さま』 (2021/02/08) |ホーム| |