「六人に配りました」と結奈は答えた。
「えらい少ないではないかえ、ミルク殿。その内訳は?」と伊津子が訊くと、
「うちの上司と、父と祖父と兄と弟二人であります」と結奈は答えた。
「すると、お前さまは会社の上司一人だけと、あとは家族かえ?」と伊津子。
「はい。そうであります。本命チョコに大枚をはたいてしまったので、残るギリチョンにはいかほどもなく上手に包装をしまして、百均の上等な手提げ袋で心を込めました。にわかの本命チョコは、より上質な百均袋であります」と結奈は答えた。
「して、お前さまの真の本命とは、誰じゃ、正直に申せ」と攻める伊津子。
「お姉さま。実は十四日の日にはお渡しできずに、こうして本日、ここにお持ちしてまいりました」と結奈は、大きな手提げ袋から気品漂う手提げ袋を出して、
「どうぞ、本日のためにお使いくだされませ」と言った。
「あら。ミルクちゃんと重なっちゃったのかしら」と蕗子が側で言った。気品漂うショコアールマニャックと同じ箱の姿がちらりと見えた。
「えっ。わたしも同じだわ」と菜々実も言いながら、大きな黒い手提げ袋から同じ箱の入った手提げ袋が出て来た。
「もしかして、もしかして、三人とも同じということは、いっちゃんはわたしたちに何を出してくれるのかな。この部屋の主さまに限って、まさかねえ」と蕗子は伊津子を促した。結奈も
         ( 42 )       バレンタイン < 7 >
短編小説集『ブルーベリーの王子さま』

(2021/02/10)

ホーム



制作・著作 フルカワエレクトロン