菜々実も畏まってる伊津子をじっと見つめている。 「みんな、ごめん。安いトリュフしか用意してなかったわ」と伊津子はうなだれた。そして立ち上がると、キッチンに向かっていった。 「二人とも余計なこと言っちゃダメよ」と蕗子は、小さな声で菜々実と結奈をたしなめた。 「それにしても、菜々実はちゃんと彼氏に本命チョコを渡したのよね?」と蕗子が訊くと、 「小さいトリュフの箱だけね」と菜々実は答えた。 「うそ。ここに持って来たマニャック、帰宅したら彼氏に渡したほうがいいんじゃない」と蕗子が言うと、隣に座った結奈も真顔で「うんうん」と促した。 「心配要らないって。わたしを食べさせてあげたんだから」と自信満々の菜々実。 すると、結奈がノドをごくりとさせて、菜々実の唇を見つめた。うっすらとピンクの紅を刷いた唇が甘酸っぱくおもえたのか、自分の下唇を舌で少し濡らしながら、 「早瀬さんは、もうすぐ結婚なさるのでしょ?」と訊いた。 「ふきちゃんに聞いたのね。今年の秋に式を挙げる予定よ」と菜々実。 「いいな。わたしも早く結婚したいわ。家を出ようかしら、伊津お姉さまみたいに、マンションに住めたら最高なんだけどなあ。わたしのおうち男系の家族でしょ、色気ないし。伊津お姉さまみたいな女性に憧れるんですよねえ。もちろん、お二人にも」と結奈は笑顔を浮かべた。 |
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短編小説集『ブルーベリーの王子さま』 (2021/02/08) |ホーム| |