れると、飲み物を作業ズボンの左右のポケットに1本ずつ入れて、上着の左右のポケットにも1本ずつ入れた。自分のアメリカンは手で持った。会社から支給された夏場用の麻地の薄い長袖作業着は、けっこう涼しくて作業がしやすかった。
 飲み物を手にして自販機を背に離れようとすると、後ろへ振り向きざまに人と少しぶつかってしまい、高村は「あっ、すんまへん」と謝り、ぺこりと頭を下げた。すると、その通行人の若い男性が高村をぎろりと睨みつけて、「アホんだら」と舌打ちしながら、すぐ去るかと思いきや、「あっ、くさ」と顔を歪ませて、捨て台詞(ぜりふ)を残しながら、(ハエ)を追い払うように右手首を二回振り払って「あっち行け」と促した。二十九歳の高村より若いスキンヘッドの男だったが、高村は「すんまへん」と、またぺこりと頭を下げた。男は眉毛も剃っていて、因縁をつけて来そうだった。高村は飲み物を落とさないように船に戻った。

 二〇一八年九月二十八日(金)快晴、午後六時、高村は千日前の水掛不動尊に今日もお参りをしていた。柄杓で鉢の水を掬い、苔むした不動尊の体に思いきり二回ほど水を掛けた。そしてもう一回水を掬うと、脇侍の矜羯羅童子と制吒迦童子にもちょんちょんと水を掛けた。
「どうぞ真弓が元気でいますように、お守りください。どうぞ、また真弓と会えますように」と願を掛けると、柏手を二回打って、お辞儀をした。
 お参りを済ませ、後ろを振り向くと、順番待ちの人たちが十人くらいずらりと並んでいた。週末の金曜日の夕方にしては多
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短編小説集『ブルーベリーの王子さま』

(2021/04/19)

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