と言いながら、立とうとすると腰が抜けて思うように立てなかった。 「行雄は男やろ。ほら、立ってみい」と真弓は右手を差し出して促した。 高村は真弓の右手を握りしめて、立とうとした。真弓は力いっぱい彼を引っ張った。 「あっ、立てた立てた」と高村は笑いながら久しぶりに見る真弓の顔に安堵した。 「ちょうちん数えたら、何かええもん、もらえんの」と真弓が訊いたので、 「ただの暇つぶしや。まあちゃんが来てくれるまで、百個数えてきいへんかったら、戎橋に行くねん。途中で腹ごしらえして、スタバでコーヒー飲んで、またまあちゃん待つのんや」と高村は嬉しそうに言った。 「ほんまに行雄は馬鹿正直ねんやな。いつからうち待ってんのや?」 「英國屋で別れてから、ずっとや。まだ、梅雨が明けへなんだ頃やないか」 「そおか。そない前から」 「大したことあらへん。まやちゃんに会えるまで、お不動さんに願かけて、たったの七十日でまた会えたし。それより、ここで待ってること、覚えといてくれたんがうれし」 |
( 60 ) 終らない夏 < 13 > |
短編小説集『ブルーベリーの王子さま』 (2021/04/19) |ホーム| |