顳顬(こめかみ)から冷や汗が出てきた。両手をついた高村は真弓をじっと凝視して、蹲ったまま、思わず泣き出しそうになった。「まあちゃんや。ほんまにまあちゃんや」
 と言いながら、立とうとすると腰が抜けて思うように立てなかった。
「行雄は男やろ。ほら、立ってみい」と真弓は右手を差し出して促した。
 高村は真弓の右手を握りしめて、立とうとした。真弓は力いっぱい彼を引っ張った。
「あっ、立てた立てた」と高村は笑いながら久しぶりに見る真弓の顔に安堵した。
「ちょうちん数えたら、何かええもん、もらえんの」と真弓が訊いたので、
「ただの暇つぶしや。まあちゃんが来てくれるまで、百個数えてきいへんかったら、戎橋に行くねん。途中で腹ごしらえして、スタバでコーヒー飲んで、またまあちゃん待つのんや」と高村は嬉しそうに言った。
「ほんまに行雄は馬鹿正直ねんやな。いつからうち待ってんのや?」
「英國屋で別れてから、ずっとや。まだ、梅雨が明けへなんだ頃やないか」
「そおか。そない前から」
「大したことあらへん。まやちゃんに会えるまで、お不動さんに願かけて、たったの七十日でまた会えたし。それより、ここで待ってること、覚えといてくれたんがうれし」
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短編小説集『ブルーベリーの王子さま』

(2021/04/19)

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