「あんだけ大声で言われたら、覚えとるわ」 「なっ、まあちゃん。いま付き合っとる彼氏おるんやろ。ええのんか?」と高村が訊くと、 「あんとき、行雄の前で彼氏のメアドと番号消してん。ブロックも掛けたさかい、もう会うことあらへん。彼氏にしようか迷ってたら、行雄があんなん言うし。行雄に賭けたんや。素っ気のう別れてしもうたんは、あれは芝居や」と真弓は、高村を見詰めて言った。 「そうか。まあちゃんをひとりにして、ごめんな。オレ、改心して、あれから真弓のためだけに生きてゆこおもうて、あれからすぐに仕事も見つけたんやで」と高村。 「今度は何の仕事してんねん」と真弓。 「ファンタスティックな、お仕事や」 「いや。行雄に合わんような気もするけど、どないにファンタスティックなん?」 「大阪を美しくする仕事や」 「わかった。おっきぃ看板、また付けるん?」 「看板屋はもうやめた。そんなんとちゃあう」 「大阪を美しくする仕事やろ。難波ネオン商会はやめたんやしな。それとも、別のネオン屋に転職したとか。そんなんしか、思いつかんへんわ」 「まあちゃん、世界は広いよ。視野を広く持って、どないしたら大阪がもっと美しく映え変わるか、近未来思考の頭脳で見なあかんわな」 「へええ。近未来思考の頭脳なあ。まったく想像でけんわ」 |
( 61 ) 終らない夏 < 14 > |
短編小説集『ブルーベリーの王子さま』 (2021/04/19) |ホーム| |