「まっ、今は内緒や。そのうち、教えたる」
「ほな、楽しみにしとこか」と真弓は言いながら、にっこりと笑った。
「まあちゃん、これから一緒に、ぼてぢゅう行かへんか、おごるし。久し振りにまあちゃんとお好み焼き食べたいし」と高村は真弓を誘った。
「きょうはこの格好やし、店の中で食べるのはやめて、持ち帰ってもええか」と真弓。
「もちろん、ええよ。そやった、スーツやもんな。池坊の師範は、いつ()うてもキマってんな。相変わらず忙しいのんか?」と高村。
「そよな。忙しいのは、ほんまはあかんねん。家元の訓えが、ふだんを活ける、やろ。花を活けるとは、自分を活けることやし」と真弓。
「へええっ。ええこと言う家元やなあ」と高村は感心した。
「ほな、ぼてぢゅう行こか」と高村は真弓の左手を握って歩き始めた。
「ほんま。行雄と久し振りのぼてぢゅうやな」と真弓は言いながら、高村の右腕にもたれて歩き始めた。法善寺横丁の夕暮れはすっかり夜空に包まれて、提灯の明かりと人がひどく賑やかだった。点滅ネオンのせわしい繁華街の騒音が、今夜は特別に心地よかった。高村はもう二度と真弓の手を離さないと誓い、水掛不動尊のご利益に感謝しながら「ほな、お不動さん、また来るで」と挨拶し境内を出て行った。(完)
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短編小説集『ブルーベリーの王子さま』

(2021/04/19)

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