「まっ、今は内緒や。そのうち、教えたる」 「ほな、楽しみにしとこか」と真弓は言いながら、にっこりと笑った。 「まあちゃん、これから一緒に、ぼてぢゅう行かへんか、おごるし。久し振りにまあちゃんとお好み焼き食べたいし」と高村は真弓を誘った。 「きょうはこの格好やし、店の中で食べるのはやめて、持ち帰ってもええか」と真弓。 「もちろん、ええよ。そやった、スーツやもんな。池坊の師範は、いつ 「そよな。忙しいのは、ほんまはあかんねん。家元の訓えが、ふだんを活ける、やろ。花を活けるとは、自分を活けることやし」と真弓。 「へええっ。ええこと言う家元やなあ」と高村は感心した。 「ほな、ぼてぢゅう行こか」と高村は真弓の左手を握って歩き始めた。 「ほんま。行雄と久し振りのぼてぢゅうやな」と真弓は言いながら、高村の右腕にもたれて歩き始めた。法善寺横丁の夕暮れはすっかり夜空に包まれて、提灯の明かりと人がひどく賑やかだった。点滅ネオンのせわしい繁華街の騒音が、今夜は特別に心地よかった。高村はもう二度と真弓の手を離さないと誓い、水掛不動尊のご利益に感謝しながら「ほな、お不動さん、また来るで」と挨拶し境内を出て行った。(完) |
( 62 ) 終らない夏 < 15 > |
短編小説集『ブルーベリーの王子さま』 (2021/04/19) |ホーム| |