トラフ 「ボクの栗、あげる」と中山先輩はヘルメット一杯になった栗を私に差し出した。「キミのヘルメット、ちょうだい」と言うので、私は自分のヘルメットを脱いで彼に渡した。すると中山先輩は、私のヘルメットに自分が採った大粒の栗を一つ残らず全部まるごと移し替えた。 「えっ。全部くれるの? 中山さんの分は?」と私が訊くと、 「ボクはまたすぐに採れるから、いいんだ」と彼は言って、自分のヘルメットをコンコンと叩くや、ヘルメットの内側のゴミを除いてから再び頭に被った。 この一帯の線路沿い区間には栗林が続いており、JR在来線の敷地内ということで、鉄道保全の仕事では、線路側に山林の飛び出した樹木の伐採がたまにあり、こういう美味しい仕事も待っていた。人が普通に立ち入れない道なき道の山林には、こうした自然の恵みに遭遇することはよくあった。甘柿もあれば 中山先輩と親しくなったのは、以前、先輩から命を助けても |
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短編小説集『ブルーベリーの王子さま』 (2021/05/24) |ホーム| |