らったからである。背の高い私は身長のわりには体重が少なくて、六〇キロしかなかったのだが、腕力や筋肉はそれなりに人並の強さは備えていたものの、時に想定外の過重労働を強いられることがあり、その日、とある在来線の某支線で自動列車停止装置(ATS)の埋設工事での出来事だった。
 川沿いの小さな無人駅で、夕陽がとても美しく川面に映える場所だった。そこのATSの埋設工事区間はおよそ百メートルくらいの距離だったろうか。線路脇に五〇センチ幅で五〇センチ高さの溝が掘られ、溝の長さが大体百メートルくらい続くのだ。溝はあらかじめATS工事区間計画で黄色い掘削工事車輌が掘っている。線路の上を動いてゆく工事車輌は線路バラスを超えて正確な位置までアームを伸ばし、その位置から下へゆっくりと土を掘り下げてゆく。掘削された土は外側へ盛られ、埋設工事が終了すれば、盛土はコンクリートの溝蓋を覆ってゆくが、余った盛土は工事車輌の後ろに連結されたパケットに回収される。
 ゆるやかにカーブした線路沿いのATS用溝には、太い電線ケーブルを埋設するためにコンクリート製のトラフを置いてゆかねばならなかった。横幅三〇センチ×高さ三〇センチ×長さ五〇センチ×厚み五センチの「コ」の字型トラフで、一個あたりの重量は二十五キログラムだった。二十五キロのコンクリート製トラフを一つずつ溝に置いてゆく作業だけは、なぜか手作業だった。最初は一輪車で運びながら八人くらいが搬入しては、順番に置いて並べていったが、徐々に人数が減って来て、私と三人の先輩だけが残って設置作業をこなしていった。十個
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短編小説集『ブルーベリーの王子さま』

(2021/05/24)

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