運んで並べても、たったの五メートルしかならないので、三十メートルくらいから作業員が一人去り、二人去り、重労働から上手に逃げるように、ケーブル埋設用のドラムや電気装置系統の仕事の方へ着手し始めていた。私の体はすでに悲鳴を上げていて、腰が砕けそうになっていた。
 およそ六十メートルくらい進んだところで私が後ろを振り向くと、怪力の中山先輩が両肩にトラフを一個ずつ載せてこっちへ歩いていた。私と中山先輩だけがこのトラフ搬入設置作業をしていて、他には誰もいなかった。中山先輩は私のそばを通り過ぎて、先の方までトラフを持ち運んでいた。トラフは掘られた溝の盛土とは反対側の横に無造作に置かれて並んでいた。あと数十メートルで持ち運びだけは完了しそうだった。七十メートルあたりで私はいきなり眩暈(めまい)を起こし、持ち抱えたトラフと共に体ごと前のめりになって土の溝に落ちてしまった。

 そこからの記憶はなく、ただ軟らかい土の匂いと、汗まみれになっている体の汗の滴が目の中に入り、何も見えなくなっていった。土は次第に冷たく感じるようになり、意識は完全に薄れてしまった。
 しばらくして、誰かが大きな声で叫んでいた。中山先輩の野太い声だった。
「こっちこっち。早く来てくれ!」
「意識はありますか?」と救急隊員に訊かれ、中山先輩は、
「動かさないほうが、いいんですよね? 意識はないみたいですけど、心臓は動いてます。脈もありますから。ボクがそろっ
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短編小説集『ブルーベリーの王子さま』

(2021/05/24)

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