とトラフを持ち上げてますので、ゆっくりと引っ張り出してください」と二人の隊員に言うと、隊員二人は私の体を土の中から引きずり出して、ストレッチャーのタンカに乗せた。 「おい、杉崎。しっかりしろ!」と中山先輩が叫んでいた。タンカに運ばれてゆく私のまわりには作業員たち全員が取り囲んでいた。再び意識を失った私は、漆黒の闇のなかにいるような深い眠りに陥っていった。 翌日に目が覚めると、私は労災病院の病室にいた。 「杉崎くん。どうだい? ボクのこと、わかる?」と中山先輩が訊いたので、 「はい。先輩、わかります」と私は答えた。 中山先輩はベッドの上に置いてある押釦スイッチを押すと、すぐに若い女性看護師がやって来た。 「どうですか、杉崎さん。気が付かれました? ちょっと脈、診ますね」と言ってから、 「手の具合はどうですか?」と看護師に訊かれて、 「えっ、手ですか?」と私は左手の中指あたりに違和感を感じて左手を毛布から出すと、何かズキっと痛みを覚えた。手に包帯が巻いてあり、真ん中の指あたりに添え木のようなものが固定されていて、左手全体が負傷しているようだった。 「中指だけ骨折してますけど、他は大丈夫でしたよ」と笑いながら看護師が言った。 「杉崎。お前の左手、血だらけだったぞ。発見した時、指がみんなグチャグチャに見えてさ、ボク、こわかったよ」と怪力で大男の先輩には似合わない言葉だったので、私は思わず笑みを |
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短編小説集『ブルーベリーの王子さま』 (2021/05/24) |ホーム| |