気味の人が言うと、
「この先もうすぐ行くとね、二、三キロくらいかな、高い山がずうっと連なって見える開けた場所があるから、そのいちばん右側の奴だっけ、方角的には北側の峰になるんじゃないかな」
 と詳しそうな人が親切に説明してくれた。
「わかりました。まだまだこの先ずっとですね。ありがとうございました」と高村は礼を言って再び自転車を漕ぎ始めた。どうやら湖畔の連峰側を走り続けていたようだった。

 本当は真弓と一緒に旅行がしたかったのだが、去る者は追わずという男の意地のようなものが邪魔をして、後になって悔いが残ってしまった高村ではあった。結婚式も挙げられないような低所得の身では、到底ライバルには敵わなかったのも事実だ。収入に負け、顔立ちにも負け、度胸にも負けて、体格と学歴にも負けてしまった。そんな自分にそっと手を差し伸べてくれていた『美女と野獣』のベル役のエマ・ワトソン似の真弓を、自分のほうから手放すなんて、本当にバカだったと、高村は湖に向かって思い切り泣き叫んだ。
「あなたって、最低ね」と言われた高村は、この時まだ女の気持ちが判っていなかった。
「最低で悪かったな。別れてもいいよ」と高村が言うと、
「想像以上に意気地無しなんだ。じぁあね。さようなら」と真弓は言った。
 別れてみて、真弓の気持ちが汲めなかった高村は、深く後悔した。逆に彼女を思い慕う気持ちが目の前の森の深緑のように
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短編小説集『ブルーベリーの王子さま』

(2021/04/19)

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