「ライバルに取られたんです」と高村。
「取り返したらいいんじゃないの」と亭主。
「女って、一旦気が変わったら、元に戻りませんよね。習性っていう言葉はあまり使いたくはないんですけど、男の習性よりも女の習性のほうが、かなり手厳しいと言いますか」
「取り戻したかったら、本気で強引な愛情を示せばいい。心からのね」
「そこまでボク、強くはなれないかもしれません。完璧なライバルだし、ご覧のとおりボクは意気地なしだし。ボクには旅と読書しか趣味が無いんですよ」
「いいんじゃない。旅と読書は最高の武器だと思うがね。恋愛は最終的に顔やおカネじゃないからな」
「そうなんですか」と高村は、土産店の亭主と束の間の恋愛談義を楽しませてもらった。青木湖での最高のお土産となった。

 それから数週間後、大阪に戻った高村は真弓と梅田阪急十七番街のカフェ英國屋で待ち合わせをした。
「もう会わないって、言ってなかった」と真弓は高村を睨むような目つきで言った。
「ごめん。信州の青木湖に行って、気が変わったんだ」と高村が言うと、
「へえっ。一人で?」と真弓が訊いてきた。
「まあちゃんと一緒に行きたかったけど、自分を見つめ直そうと思って」
「へえっえ。修行の旅なん?」
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短編小説集『ブルーベリーの王子さま』

(2021/04/19)

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