「そう。白馬連峰がキレイやねん。湖がまあちゃんの眼みたいに、澄んで清らかやった。オレ、いま反省してんねん。何回も失業して経済力がないし、そのくせ、すぐに放浪の旅に出るやんか。修行の旅して、頭、冷やしてんねん。まあちゃんと、どんだけ一緒に行きたかったか。けど、まともなホテルに宿泊できんし、まあちゃんを野宿させるわけにもゆかんやろ。そんで、いっつも一人修行の旅になってもうて」
「行雄はさあ、いっつもそうやって勝手じゃん。わたしがいつ行雄と一緒に旅せんって言うた。わたしだって修行の旅、一緒に行きたいやん。おカネの問題やない。気持ちの問題や」
「まあちゃん。今は、いつでも、どこでも、一緒に行ってほしい思うてる。オレのとこに戻って来てほしい」と高村は女々しく真弓に懇願した。
「手遅れでしょ。わたし、付き合ってる彼氏いるし。行雄とは終わってん」
「前の行雄とは終わってええよ。今のオレはリメーク版の高村光太郎や」
「アホな。いつから彫刻家になったん」
「やっと今日まあちゃんに会えてからや。オレは高村光太郎の『智恵子抄』みたいに、まあちゃんにずっと詩を書いてゆこうと思うてる。真弓はオレのすべてやった、って、やっと今、気が付いてん。もう絶対に、二度と放しとうない」と高村は真剣な眼差しで、真弓の瞳から目を離さなかった。
「困ったな。今日で行雄と会うのは、おしまいやのに」と真弓は下を向いた。そして、スマホを手に取ると、指先で操作し始
         ( 54 )       終らない夏 < 7 >
短編小説集『ブルーベリーの王子さま』

(2021/04/19)

ホーム



制作・著作 フルカワエレクトロン