くたばって朽ち果てようとも、異臭を放つ汚いヘドロを全身に被ろうが、自分にできる仕事ならば拒まずに何でもやり遂げたかった。 浚渫工事は思っていたより技術が近代化しており、短期間の区間工期でみるみる進んでいった。超小型マイクロポンプ浚渫船「明海」は、視界ゼロの堀川のヘドロを素早く回収していった。船の外観とは似合わないハイテク探知機の3Dバケットモニターは、川底の映像を瞬時にCGワームへ置き換えて細かな輪郭線画面を映し出してゆく。四、五台の水中カメラとAIセンサが常に状況を捉えており、高度なCG技術処理がなされていた。驚くべき浚渫船だった。 高村の仕事は乗船作業の手伝いと、泥まみれになった超小型バケットの手入れだ。バケットは外れるようになっており、事務所前にある小型船舶係留バース作業所で、厚手のゴム手袋をして水洗いするのが日課となっている。最初は臭いのひどさに何回も嘔吐してしまい、防毒マスクを借りて作業していった。時々、失神しそうな眩暈にも襲われたが、少しでも美しく生まれ変わってゆくであろう道頓堀川のために、無我夢中で作業していった。 「高村! そろそろ五時やでぇ。彼女、待ってんのやろ」と船長の親方から言われると、「はい。そろそろ片付けます。おおきに」と高村が返事をすると、他の作業員がみんなゲラゲラと笑った。先輩の一人から、 「急げ急げっ! 水掛不動尊がお待ちやでえ。石仏も、会いたかったわ、って言うんちゃう」と皮肉まじりで言われた。 |
( 56 ) 終らない夏 < 9 > |
短編小説集『ブルーベリーの王子さま』 (2021/04/19) |ホーム| |