「それはイイ話じゃないですか、先輩」と私が言うと、 「ボクは部屋にどうやって庭を持てばいいのか、わからないんだ。盆栽を置けばいいのかなあ」と先輩は困った表情で言うので、 「そうじゃなくて、身を固めなさいって、ことですよ」と私は言った。 「じゃあ、こうやって、歯を食いしばり、力を込めて、 「ははははっ。冗談がきついですよ、先輩」 「じゃあ、もっと腕に力を入れるのかい?」 「身を固めるっていう意味は、早く結婚しなさい、って言われてるんですよ」 「け、結婚? 社長夫婦みたいに?」 「そうですよ。先輩もイイ歳ですからね。いま三十歳くらいですか?」 「わかんない。社長が知ってると思うんだ」 「えっ。自分の年齢をマジで知らないんですか?」 「うう~ん。知らない。でも、ボク、自分の名前と生年月日は言えるよ」 「なんだ、知ってるじゃないですか。生年月日はいつです?」 「天保九年四月六日、名は中山弥多兵衛、薩摩藩士でごわす」 「えっ。江戸時代の生まれだったんですか。そんなワケないでしょ、先輩。それじゃあ、とっくに百歳超えてるじやないですか。いや、もっと行ってます。百五十歳は超えてますよ」 「ボク、百五十歳なのかい? 夢ヶ鼻の大桜が樹齢百五十年く |
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短編小説集『ブルーベリーの王子さま』 (2021/05/24) |ホーム| |