薄青い空 病棟十階の大きな窓から見える薄青い空。もう一度あの眼下に見える街路樹のある道を自分の足で歩きたい、そう願う伊山史郎は、この窮屈な四人相部屋となっている病室をゆっくりと出た。長い長い一日が 病室の自分のベッドに戻り、本を読んでいると、死刑執行人の由良之助がカーテンを開けて、「ちは。ご機嫌いかがかな。ほう、まだ生きてたかいな。顔、えろう白うなって、蒼ざめてんなあ。ま、もう少しや」と赤い顔を腫らして言った。目の前に突っ立った由良之助は両腕を組んで、左指四本を右腕の上でピアノを弾くように上下に動かしながら、 「案外しぶといやんけ。苦しかったら、いつでも、手伝ったるで」と言った。 「お前には、時間切れが読めるのか」と史郎が訊くと、 「読める読める。お前はあすの明け方、廊下の東側窓が真っ赤な朝陽で赤く染まる頃に、やっと病院から解放されとるわい。昇天まで一年もかかったぞ。ワシも待ちくたびれたわい」 「なら、下から見上げた薄青い空も、やっと、青く見えるんだな」と史郎は微笑んだ。すると、由良之助は言った。 |
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短編小説集『ブルーベリーの王子さま』 (2021/08/12) |ホーム| |