とるわい。ワシの持つこの鉞にもパワーが宿っておっての、史郎は鉞の重さで落下していったのじゃ。鉞からお前さんが手を放したら、いつでもワシの元へ鉞は戻って来るんじゃ」 「まるで映画みたいな話だな、由良之助」と史郎は再び雲の上を歩き始めた。 「そうじゃろう。天国の門をくぐったら、ここは魔法のような楽園じゃ」と由良之助。 薄青い空が次第に濃い青色に変わってきた。いつの間にか不夜子と芽芽子が 「何か楽しそうな話のようだけど」と史郎が口をはさむと、 「右足がいいわ、って不夜子姐さんに言ったの」と芽芽子。 「右足? 誰の右足なの?」と芽芽子に訊くと、 「史郎にきまってるじゃない」と答えた。 「ボクの右足が、どうかしたの?」 「左足には傷の痕がいろいろ残ってるでしょ。だから、キレイな右足を選んだの。右足から頂くわ」と芽芽子は妙なことを言った。 「わたしは耳たぶから食べてみたいな」と不夜子まで不気味なことを言い始めたので、史郎は二人の側から後ずさりして、踵を返すと、二人を遠ざけるように歩き始めた。そして、逃げるように走ったが、走っても走っても足が空回りするのか、さっきから同じ場所、同じ雲の上だった。 「どうしたの、史郎。汗かいて」と不夜子が艶めかしい口をあけて舌を出してきた。 |
( 80 ) 薄青い空 < 11 > |
短編小説集『ブルーベリーの王子さま』 (2021/08/12) |ホーム| |