「助けてくれえッ!」と史郎が叫びながら急降下していると、由良之助がすぐに現われて、 「鉞から手を放すのじゃ。いつまでも握っとらんと、放すんじゃ」と由良之助から言われるままに史郎は素早く鉞を手放した。すると、今度はいきなり史郎が急上昇していった。鉞は見る見るうちに地上の方へ落下していった。 「なあ、史郎。これでわかったか?」と由良之助が訊くので、 「さっぱり分からん」と史郎は言った。 「下界じゃ三キロの重さなんじゃが、この天国じゃ三十キロの重さじゃよ。人間が肩に担いだら三十キロの重力になるが、ワシは人間じゃないからの。三グラムの葉っぱを肩に乗せてるようなもんじゃ。一見、見かけは重そうな鉞に見えるがの。切れ味抜群の刃でな、史郎の首をちょん切るにはもってこいの鋭さよ」と由良之助は高笑いをした。 「さっきの鉞は地上で三キロと言うなら、地上に落下した時には何トンもの威力が働くんじゃないのか、隕石みたいに」と心配する史郎は顔が蒼ざめた。 「心配は無用じゃ。とっくに回収しとるわい、ほれ」と由良之助は言って、史郎にその鉞を見せた。 「アメリカ映画の『マイティ・ソー』を知っとるか? 主演はクリス・ヘムズワースでアスガルドの第一王子ソーが持つ全能のハンマー・ムジョルニア、あれと同じパワーをこの鉞も持つのじゃ」と得意げな由良之助。 「死刑執行人のお前は、映画が好きなのか?」と史郎。 「ここは映画天国でもあるのじゃ。人間の作り話はみんな知っ |
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短編小説集『ブルーベリーの王子さま』 (2021/08/12) |ホーム| |