「そうじゃのう。お前は 「げっ。アンコウとは失礼な。ボクがアンコウなら、お前は 「そんなタコは天国にはおらんわい。じゃが、クラーケンなら海底だけとは限らんぞい。天国の門をくぐれば空にも現われるわい。さっき、お前さまの背後に大きい目玉がチラリと見えたが、ありゃきっと怪物のクラーケンじゃな」と由良之助は史郎を脅した。史郎は後ろを振り向いたあと、 「すると何か、死んでも恐怖は付いて来るのか。何のための天国か、わからないじゃないか」と突っ込んだ。由良之助は「ふ~ん」とうなずいて、肩に乗せた重い 「なあ、由良之助。さっきからボクたちは雲の上を歩いているようだけど、ここは本当にあの世なのか?」と尋ねた。 「歩いておるようで、歩いてはおらん」と由良之助。 「なんだ、禅問答でもしているつもりなのか」と史郎。 「下界には重力があるでな。歩くか、泳ぐか、立つか、寝るしかなかろう」と由良之助。 「じゃあ、この雲の上を歩いているということは、この空中にも少しは重力が残っているということなのか」と史郎。 「ならば、この鉞を持ってみるとわかるじゃろ」と言って、由良之助は史郎に鉞の柄を差し出した。言われるままに史郎は鉞を握った。 と、その瞬間、史郎は真っ逆さまに下に落ちていった。 |
( 78 ) 薄青い空 < 9 > |
短編小説集『ブルーベリーの王子さま』 (2021/08/12) |ホーム| |