映画『アクアマン』を3Dで観る
音声/ブルーレイ 3D : 5.1ch DTS-HD Master Audio (英語) - (字幕:日本語)
音声/ブルーレイ 2D : 5.1ch DTS-HD Master Audio (英語) - (字幕:日本語)
音声/ブルーレイ 2D : ドルビーTrueHD ドルビーアトモス (英語) - (字幕:日本語)
『アクアマン』(2018米)をレンタルBDの2Dで観ていると、これは絶対3Dで鑑賞すべしと思い、市内のショッピングモール・フジグラン宇部店の明林堂書店BD販売コーナーで3Dの在庫を見つけ、早速購入してゲット。それを鑑賞すると期待通り、世界最高峰の3D世界に圧倒された。壮大なる映像と群を抜いた臨場感抜群の音響・音質は、おそらく現在この作品が全世界最優秀製作技術の頂点に達しているのではないかと思われる。ジェームズ・ワン監督が自ら言うところの、海の『スター・ウォーズ』に近いものだった。いや、ひよっとして、それ以上の出来具合であり、有無を言わせぬ表現といえる。ワン監督が憧れているスティーヴン・スピルバーグやジョージ・ルーカスならびにジェームズ・キャメロンといった大作映画を製作できる監督への王道は、着々と近付き実践されているようだ。妙な『ソウ』シリーズから『死霊館』、『アナベル』、『ライト/オフ』などのホラーを扱った類いがあるかと思えば、『ワイルド・スピード/SKY
MISSION』(2015)も手掛けて来たワン監督の世界観は実に奇抜ではある。面白さへの追及ないし怪物が群雄割拠してくる映像への探求心は、アイデアやキャラクターのみならず往年のSFX、VFXといった製作技術の進化や手法の段階を踏襲しながら、さらなる現代の先端CG技術も極めるばかりでなく、世界ロケ現場を多様に駆使して、空想世界をリアルに展開してしまう醍醐味は実に圧巻だ。
この作品を映画館で3D鑑賞しておけばよかったとつくづく悔やまれるが、宣伝ポスターの印象だけで判断してしまったのは残念だった。ジェイソン・モモアの肉体美を覆う刺青模様が、どうも気に入らなかったのだ。身体が薄汚く見えて、カッコイイとは思わなかったのである。俳優の刺青表現にはどうも抵抗感があって、立派な体躯になぜ威嚇しなければならないのか、私には今も理解できない。刺青が本物であろうとペイントであろうと、入れ墨の表現を芸術だとは思っていない頑固頭の私は、いまだに私を不快にさせてしまうのだ。男らしさや強さを表現したいつもりなのかよく解らないが、バカげた発想だと私は思っている。男らしさや強さは外見で表現するものではなくて、勇気と行動力だと思っているので、私も相当に古い人間なのかもしれない。親からもらった健全なキレイな身体を自ら苦痛を伴いながら汚してゆくのは、少なくとも親不孝ではある。刺青はそもそも日本文化の反社会的頽廃への刻印でもある。谷崎潤一郎の小説のなかに『刺青』という作品があるが、谷崎文学はどちらかといえば、美に対して偏執的な風俗描写が過剰に織り込まれてゆく独特の世界観があって、それらの顕著な異端作品としては『金色の死』や『富美子の足』、『春琴抄』、『卍』、『鍵』、『痴人の愛』、『蓼喰ふ虫』、『少将滋幹の母』など数えたらきりがないが、そして初期の作品『刺青』だ。
『刺青』では、色の白い美しい女の背中に入れ墨をするのが生き甲斐な元浮世絵職人の彫り師こと清吉の異常すぎる偏執愛が描かれているわけだが、その愛はいつも女に向けられたものではなくて、刺青で描かれた女体の背中なのだ。その異常な性癖は、ついに最高の若くて美しい白い肌の完璧な娘を見つけて彼女を口説くや、麻酔で眠らせ、大きな女郎蜘蛛を背中いっぱいに彫り上げるものだった。やがて娘が目を覚まし、清吉に言われるまま、彼女の背中に朝日をあてると、なんと女郎蜘蛛がゆらゆらと動いているようではないか。普通の小娘が背中に刺青をされてしまったばっかりに、着物をはだけて背中が露わになると、恐ろしく不気味な魔性の女に変身してしまう、といった変態小説である。谷崎文学にはいろんな小説があって確かに面白いが、今は「刺青」という概念に触れているわけだけれども、私は実際に牡丹の花の刺青をしていた人と昔22歳の頃に京都の廃品回収業の会社で一緒に働いていたことがあって、その人はとても真面目で大人しい人だったが、本物の刺青をまじかに見ると、やはり何とも異様な迫力を感じるもので、その物静かで威圧的な印象を受けてしまう感触は今も忘れられない。
さて、本題に戻ろう。ジェイソン・モモアの全身エスニックなタトゥーは結局ペイントだったようで、海中に潜るたびにペイントが消えかかって、メイキング・チームもさんざん苦労していったようだった。映画『アクアマン』の壮大な海洋スペクタクル物語のあらすじはさておき、この娯楽大作アクション映画は、これまで経験したことのない映像魔術に誰もが憑りつかれるに違いない。アトランティスという空想上の王国にまつわる実写版映画なのだけれども、古代ギリシャの神話に基づいて再現されたものだ。とは言うものの、所詮は単なる西洋のお伽話と思えばいいかもしれない。空想の世界を実写化することで映画はさらに楽しくなるのである。ストーリーの根底には、地上の人間たちが有り余る環境破壊をしてゆくなかで海洋汚染の源となる貪欲な人間の文明社会構造に問題があるとしているところかもしれない。海底のアトランティスの住人は人間の持つ武器よりも高度なようで、アーサー王の直系第一嫡子でもあるアクアマンに至っては、銃の弾丸が体に当たってもスーパーマンのように肉体は鋼となっており、びくともしない。潜水艦を海中から持ち上げられるほどの、想像を絶する怪力の持ち主の上に、海中では高速のスピードと来ている。魚雷よりも速い。海中で生きられるし、地上でも空気を吸って生きられる。おまけに地上では英語を話し、海中でも英語が話せる。おまけに海の生物たちとは音波を発信してテレパシーで意思の疎通もできる。陸と海の双方の英雄であり、アトランティス王国の真の王であり、何というパーフェクト! ただ、ちと野蛮で品に欠けるが、愛嬌のあるヒーローだ。
そんな海中陸上のバトル・ムービーを3D映像で満喫してみたわけだが、『アバター』を越え、『スター・ウォーズ』を越え、ここ10年間であらゆる最新版の大作群を断トツで越えたかもしれない。3D音響も隅々まで完璧だった。ホームシアターで音響を重視している映画鑑賞の仕方としては、もう何も言うことはない。3Dには4K版がないので、将来のことを考えると、この究極のサウンドで最高峰を体感したものといえる気がする。初めて観る映像と、サメやクジラに意思疎通のテレパシーをアクアマンが音波で送信する音など、実に多彩な音質効果は抜群だった。新鮮で壮大な世界をこれほど驚愕の思いで鑑賞できたのは、久しくなかった気がする。海溝の獣群やその他の甲殻類巨大怪物、真のアトランティス王だけが持てる金の三叉矛・トライデントを守る恐ろしき怪物などなど、それらを見てるだけでも実に面白い。DCコミックスのこの原作は80年近く前から「7つの海の王」としてすでに始まっていた、というのも驚きである。マーベル・コミックとはまた一味違った世界観を帯びているようだ。本作『アクアマン』に登場するアトランナ女王扮するニコール・キッドマンの存在は、意義ある脇役で全体を引き締めてもいる。作品の冒頭から登場して来るが、灯台のある海岸の岩場で波に打ち上げられていたニコールが灯台守のトム・カリーによって助けられ、物語はここからすべてが始まっている。傷を負ったニコールがソファーで目を覚まし、目の前にある水槽で泳ぐ金魚の姿を見て、水槽に手を入れ、金魚をひょいと捕まえ、金魚の尾びれを持って食べようとすると、トムに見つかり、かわいい飼い犬もその場面を見ており、トムが「犬は食べないで」と言うと、ニコールはツルンと金魚を呑み込み、この時のニコールの表情がたまらなく可愛くて忘れられないが、このユーモラスなシーンの始まりと、その後に壮大なバトル・シーンの連続が突如展開してゆく全体バランスの手際よさは、観客をぐいぐい引き込み釘付けにしてしまうところは、最早、超一級の映画王道であろう。
【追記】 『アクアマン』の音声評価 (わが家の音響システムはこちら)
ブルーレイで3通りの音声を確認するために、レンタル2DのBDで1回、購入した3DのBDディスクセットで3回、合わせて4回も同じ映画を鑑賞したことになるが、キューブ空間状態で音のサラウンドが楽しめるマーティン・ローガンのスピーカー「SEQUELⅡ」では、アトモスよりも5.1ch DTS-HD Master Audioのほうが音のメリハリとしては最適だった。音声をアトモスに選択すると、アンプのボリューム音を少し大きくしてやらないと、音の減衰があって微妙に迫力が欠けてしまう。ボリュームを上げてやれば問題はない。そもそもサンスイのオーディオ・アンプを使用しているわけだから、2chスピーカーでは自動的にアトモス全方向からの音出は抑制されてしまう。近頃のホームシアター用のAVアンプとアトモス仕様が可能なスピーカー群を配置してやれば、本当はもっと面白いサウンドが広がるには違いない。前から後ろへの方向音や、さらには天井から突然正面に現れて来るような飛行物体の音とか、それはそれでアトラクションのように楽しいはずだ。ただ、これまでアトモスやDTS-X仕様の映画館で何度も鑑賞したかぎり、私としてはあまり好きな音質でなかったことが、やはり今もトラウマになっており、それらの大作映画が繰り広げるゲーム音は私好みの音ではないのだ。澄みきった美しい低域、美しい超重低音、アナログの温かい音質、人間や空想怪物の自然な音や声、で以ってヴァイオリンのクラシックな音やチェロの響き、雄大な風景にふさわしい静謐で、のどかな平原の風の音や、穏やかな海の波の音といった、欲張りな音質が理想だから、わがままで手に負えないかもしれないが、わが家で求めるホームシアターでは、それらが今のところすべて揃っていると言ってもいいだろう。どこかで妥協するのも楽しみ方の一つである。『アクアマン』ではそれらが充分に堪能できた。映像・画質・音質と共に、本当にすばらしい映画だった。
(2019/08/30)
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文・古川卓也
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