シネマ日記 2013-2014
文・ 古川卓也
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2014 Cinema Diary
『イントゥ・ザ・ストーム』 (2014年米 89分)
待望の映画『INTO THE STORM』をシネマサンシャイン下関のアトモス対応スクリーン6で鑑賞したのは、この夏の8月23日だった。いったいどんな体感ができるのだろうかと興味深かった。思い起こせば、体感映画の記憶に残るのが、かつて20代の頃に京都の映画館で体感したチャールトン・ヘストン主演の『大地震』(1974年米)である。映画を観る、というよりも、映画を体感する、という領域の代物である。『大地震』では午前中から入場して夕方まで映画館にいて、その日は2回ほど観た。昔はチケット1枚で2本立て3本立ての上映映画を観ることが出来たから、お目当ての『大地震』は当日2回みることができたのである。映画館内の観客席が揺れるわけではないが、地震が起きるたびに物凄い地鳴りの空気振動に体が包まれるのだ。まるで本当に地震かと思えるほどの不思議な体感だったのだ。あまりに気持ちのいい音響体感だったので、どうしてももう1回『大地震』をみたいと思ってその日は粘ったのである。
この『大地震』には、センサラウンド(Sensurround)という音響効果と低周波振動の特殊効果音装置がスクリーンの前、つまり最前列の観客席の前側に設けられていた。重さ約100kgという黒々とした箱型の専用スピーカーが最前列の観客席の前側で横一列に16個ほど並べられていたのである。地震専用の超低域スピーカー群で、それ以外の俳優の声や物音は本来映画館既設の左右のスピーカーでまかなわれるのだ。大型のフルレンジ・スピーカーが左右対称に壁に掛けてあるだけである。当時はこの脅威的なサウンド効果に私も呆気にとられたものだった。何とも快感なる異次元映画を体感したものと今でも思っている。鮮烈な記憶はいまだに刺激的なままだ。センサラウンド装置はMCAとユニバーサルの共同開発で作られたもののようだ。この大がかりなメカニズムは、いわば『大地震』を上映する映画館ごとに設置してゆくとするならば、当時は大変な重量の移動作業や設置作業が必要だったろうから、重労働と上映劇場分の台数を伴ったのではなかろうか。上映するのはいいが、非常に効率のわるい配給映画だったかもしれないが、当時映画館でこの『大地震』を体感できた人は、時代的にも幸運だったといえるだろう。こんなメカニズムを体感できる映画は二度と現れないような気がする。今時の3Dや4Dとも異なった、前代未聞の格調を帯びた絶品映画だ。静寂から激震を綿密な空気振動で制御させた作品としては、実にオーソドックなやり方で絶妙なハイテク装置でもある。当時、『大地震』を観た者にしか伝わらない感覚であろう。地震列島の日本人が実感するリアルさだろう。昨年ふとした機会で『大地震』のDVDを鑑賞したが、映画館で味わった醍醐味のひとかけらも味わえなかった。そのかわり、当時好きだった女優のジュヌビエーヴ・ビジョルドに再会できたのは嬉しかった。
さて、映画『INTO THE STORM』(2014年米)について興味深いのは、物語としてよりも、今時の最新技術で実写化・再現してしまうハリウッド映画の醍醐味である。特殊効果、SFX、VFX、2DエフェクトCG、3DエフェクトCG、と時代と共にエスカレートしてゆく映像技術や特殊カメラ群の配備は半端ではない。映像はますます革新的となり、音響もますます大変すばらしいものを再現してくれるから、作品も圧巻となって来るのは当たり前かもしれない。『INTO THE STORM』での音源はすべてドルビーアトモスとリニアPCM5.1chで収録されているから、アトモスシアターでの音の密度や臨場感は抜群のリアリティーな音域に包まれてしまうのは確かなのだが、耳を劈くような鋭利な高周波音域の連続ばかりではなくて、もっと地鳴りをも吸い上げ巻き上げる超低域の風圧を感じられる低周波振動もあってもよかったのではないかと私は思った。40年前に体感した『大地震』のような足元から突き上げる低周波振動だ。人類未体験の超巨大竜巻は直径3200m、秒速135mなのだから、アトモス劇場を揺らしてもよかった。コロナワールドでの4DXまでゆくと、そこは本物のアトラクションとなるから、近眼でメガネをかけている私のような者には、3Dメガネが落っこちてしまいそうで、あまり意味がないようだから、あくまで座席は揺らしてほしくはない見解なのだが。それでも『INTO THE STORM』のアトモスシアターでの体感は、やはり凄まじい新たな体験でもあった。壮大なパニック映画はやはり映画館で観ると、そこに巻き込まれるところが面白い。わが家のホームシアターで観ると、一体どんな按配になるのか、早くブルーレイで体験してみたいと思っているので、12月23日にBDが出るのが待ち遠しいところだ。『INTO THE STORM』のBD体験が出来たら、またここで追記してみたいと思う。
映画『イントゥ・ザ・ストーム』の音源を探る 「風景が見える音の世界」 (2014/10/31)
『マレフィセント』 (2014年米 97分)
アンジェリーナ・ジョリーが扮する邪悪な妖精マレフィセントは、ディズニー・アニメの「眠れる森の美女」に登場する悪役魔女の名前であるが、この度の映画では、マレフィセントがどんな過去を背負って邪悪になってしまったのか、知られざる経緯が幼少期から描かれてゆく。強欲な人間を信じてしまった妖精の悲哀感が実写版で美事に描かれたダーク・ファンタジー映画だ。遥か昔のこと、仲の悪い二つの国が隣り合っていた。権力と欲深い支配力にみちた国王のいる人間の国と、不思議な生き物や不気味な怪物それに変わった妖精たちが楽しく住んでいる魔法の国のムーア国、相容れない二つの国境には恐ろしい森が横たわっている。ある日、ムーア側の森に人間の子供が迷い込んで来たのだった。物語はこの場面から始まってゆく。
これまで数々のアンジェリーナ・ジョリーの映画を観て来たが、これまでとはまるで違った最高傑作の演技といえる。最もアンジーにふさわしい最高の映画であったような気がする。『トゥームレーダー』シリーズや『ウォンテッド』などのアクション映画も大変面白いとは思うが、また実話を元に映画化された『チェンジリング』とも一味ちがって、今回の『マレフィセント』はかつてアンジーが積み重ねてきた豊潤な演技力の上に自分なりの私生活や生き方にも真実の愛を追究して来た発信力・表現力がわかりやすく観客に伝わる良質なディズニー作品としてリアルに壮大に描かれたものだ。映像も今風なCGやVFXが満載で、単なる呪いをかける魔女ではなかったところにマレフィセントの凄味が現れていたように思える。映像も『オズ はじまりの戦い』(2013年米)にも負けないものだった。
翼を切り取られた物悲しい妖精の復讐劇でありながら、自分の子供でもない裏切りステファン王のオーロラ姫を赤ん坊から16歳になるまでムーア国で知らず知らずに森陰から見守ってしまうマレフィセントの切なさといい、ついにオーロラに見つかって正体を明かしてしまう美しき魔女マレフィセントに、オーロラから笑顔で近寄って来て「ゴッド・マザー」と呼ばれてしまうマレフィセントの心中も穏やかではなかったが、物語の核心となる呪いこそが、実はこの物語の重要なテーマともなっている。オーロラは16歳の誕生日の日没までに、糸車の針で指を刺して永遠の眠りにつくと呪いをかけたのもマレフィセント自身であり、それがステファンへの復讐だった。ただし「真実の愛のキス」がオーロラに与えられたなら、その忌まわしい呪いは解けるというのだ。そして16歳となったオーロラは人間国の城に向かい、本当にステファン王の城砦内で糸車の針で指を刺してしまうのだった。オーロラは呪いのとおりに永遠の眠りに就いてしまう。偽りの愛でもなく一目惚れの愛でもない、真実の愛で果たしてオーロラの呪いは解けるのか、結末は言わないほうがよさそうだ。
さて、今回この映画『マレフィセント』は今月7月にオープンしたばかりのシネマサンシャイン下関で鑑賞させてもらった。6番スクリーンで上映されている『マレフィセント』は3D字幕で、場内はドルビーアトモスの最新音響設備となっている。シネコンとしては小さいほうだが、ゆったりと脚が伸ばせて前席が低くなっているから人の頭でスクリーンが見えにくくなるということもない。地方にある映画館としては上等だ。期待していたドルビーアトモスとしての音響や臨場感、そして何より音質の生々しさもすばらしいものだった。宇部から車で1時間の距離で、シネマサンシャインの新しい駐車場(1800台駐車可)を利用して映画鑑賞すれば5時間駐車無料となっているのが何より嬉しい。ドルビーアトモスは初体験。指定席もほぼ理想的な中央席をゲット。ただ、映画作品自体がいくら3Dであってもドルビーアトモスで収録されていなかったのか、究極の前後左右上下サラウンドの効果は期待した以上には味わえなかったので、また別の作品でここにまた来たいと思った。しかしながら、作品としての『マレフィセント』は2014年度作品としてアカデミー賞候補に匹敵するものに思えた。少なくとも私の中ではアンジェリーナ・ジョリーはこの作品で主演女優賞に値している。けっして長編映画ではないが、アンジーでなければ描けない作品のような気がする。最後に、音楽も大変すばらしい。ウォルト・ディズニー創立90周年記念作品というのもいい。
(2014/07/15)
『epic』が『メアリーと秘密の王国』 になって、ついに日本でも劇場公開! 2014年10月18日全国イオンシネマにて
(2014/09/25)
『epic』 (2013年米 102分)
『ロボッツ』や『アイス・エイジ』でお馴染みのクリス・ウェッジ監督による2013年製作の3DフルCGアニメーション映画『epic』なのだが、残念ながら日本では未だ上映されていない。全世界ではすでに2013年5月に公開されているものなのだが、日本での興業成績が不安なようで、すでに世界では販売もされているブルーレイ&DVDも当然ながら日本国内には無い。今のところ輸入版でしか入手ができない。スマートフォンのゲームロフト社アプリにはゲーム仕様で公開されている。映画『epic』のブルーレイ・フランス版では日本語音声・字幕があるようだが、アメリカ版ではそれらは無く英語音声のみのようだ。私は何かのレンタル映画にあった予告で最初は見つけたが、昨年の年末にブルーレイ3Dを何本か買ったら、その家電量販店内のソフト販売ショップから20世紀FOXが出しているプロモーション専用「DIVE INTO 3D」なるブルーレイディスクを頂いて、その中にも『epic』3Dがあって、ますますこの映画が気に入っていた。プロモーション映像集なので時間は予告編とあまり変わらなかったが、大変すばらしい映像美に感銘した。ユーモアたっぷりの冒険ファンタジーのアニメで、人気絵本作家ウィリアム・ジョイスのベストセラー作品『The Leaf Men and the Brave Good Bugs』を3D映像化したものだ。
すっかり疲弊して胸算用ばかりして来た日本経済の只中で、夢を売る映画の配給会社までもが、バブル崩壊後20年間ものあいだ、よほど懲りたのかもしれない。経済大国が自信を喪失してしまうと、損益ばかりに執着してしまって、映画づくりにも外国の映画価値にも眼が曇ってしまうものなのか。日本の大衆に迎合ばかりしないで、世界には途轍もなく優れた逸品映画が次から次へと産まれていることに、眼を背けないでほしいものだ。世界の有能なCGクリエーターには、そんな日本に失望してアメリカで才能を発揮している日本人もたくさんいるし、日本が世界にアニメ文化を誇って標榜すると言うのであれば、もっと自信を持って映画関連事業に邁進してほしいと思う。古い日本風土の殻を破って、外国の先進的な夢文化を大いに受け入れて学んでほしいものだ。映画作品の根底にある感動を、けっして醜い打算で判断してはならぬ。夢は才能ともなり、才能は文化を創造する。才能の芽や片鱗を嫉妬で潰すような社会に夢は育たない。実力があればこそ報われるのが、アメリカン・ドリームだろう。逆に日本の社会構造では、人の足を引っ張る者があまりに多過ぎるような気がしてならない。長い1千年の歴史に巣食う因習や因循がいまだに徘徊しているからだろう。伝統を重んじる権威には、必ず腐敗のようなものも裏目に出るものだからだ。それが手枷足枷ともなっているのだろう。特に若い人たちの夢多き才能の芽を、これからも決して摘んではならぬ。
VIDEO
アニメ映画「epic」の日本劇場公開を希望します
(2014/01/17)
2013 Cinema Diary
『アベンジャーズ』 (2012年米 143分)
【監督・脚本・ストーリー: ジェス・ウェドン】 【出演: ロバート・ダウニーJr、クリス・エヴァンス、マーク・ラファロ、クリス・ヘムズワース、スカーレット・ヨハンセン、ジェレミー・レナー、サミュエル・L・ジャクソン】
この頃本屋でよく感じること。月刊誌コーナーの文芸、ビジネス、趣味、スポーツ、自己啓発というコーナー、仕事、経営、新刊書、教養、サイエンス、芸能などなど、どのコーナーに立っても、人をそそのかしてでも買わせたい、という魂胆のタイトルが実に氾濫してみえる。どの出版社も苦境に追い詰められて戦っているのがよくわかる。まして週刊誌ともなれば、露骨な中傷の上に、えげつない下世話な言葉が飛び交っている。写真はどのジャンルでも法律を超えなければ大抵は開かれた自由でよいとは思うが、詐欺にちかい表現はわんさかとある。2012年12月21日の世界が終るマヤの予言お祭り騒ぎに至っては、それを取上げた出版物がどれほど売れたかは未知数だけれども、実に哀れなテーマではあった。ただ、人は楽しめればそれはそれで結構なことで、人にはそれぞれの趣味嗜好があるのだから、いちいち決め付ける必要はない。人生は楽しむことが最も大事だ。ビジネス、仕事、経営、文芸評論では人を惑わし、誘惑に愁眉に、あの手この手を使って心理作戦やら洗脳のような手法で「なるほど」と思い込ませるようにして、本を買わせるように仕組まれてる按配だ。買おうが買うまいが読者側の自由選択なので、本屋には罪が無い。
最近おどろいたのは、地方の本屋のせいか、水上勉の本が一冊も見つからなかったことだ。都会ではあり得ないことなのだが、水上勉の文庫本さえ見つからないのだ。最近の地方では、売れないものは置かない、という姿勢が、英知を販売する本屋でさえもがスーパー感覚の物流になってしまったのだろう。本屋さんの格調は置いている書籍で決まるが、私のような文士は流行的な情報よりも不変の価値を求めるので、水上勉の不朽の名作群を一冊も置いていないような本屋は、とても本屋とは言えないのだ。水上勉の文学的影響は私にはとても深く、それなりに若い頃から感銘してよく読んだものだ。たまたま今回は私が所蔵する書籍類に見つからなかったので、ネットで検索し、『越前一乗谷』が新編水上勉全集にはなく、最初の水上勉全集(昭和52年 中央公論社)の第13巻にだけあることが判ったので、図書館で借りることにしたわけだが、つくづく福岡市や広島市にあるジュンク堂が近くにあればなあと、不便さを感じてはいる。ネットで本を買ったりもするが、本屋に足を運ぶのは別の楽しみがあるからでもある。ジュンク堂は一日中いても飽きない。期待した以上の書籍が見つかるからだ。どのジャンルも結構徹底しているので、本との新しい出会いは興奮もする。実に感動的でもある。ジュンク堂に行けば数万円以上は買っている。予算を超えればクレジットカードでも買えるので便利だ。おまけに、ずらりと並んだ1階カウンターレジでは、どのレジも若くてキレイな女性店員ばかりで実に愛想がいい。活気があって親切でもある。売る側も買う側もみんな活き活きしてみえる。
話がずいぶん逸れてしまったが、映画『アベンジャーズ』のストーリーを今さら説明するのも億劫ではある。2012年に鑑賞した映画のなかでは、『ジョン・カーター』や『バトルシップ』、『スパイダーマン アメイジング』に『スノーホワイト』、『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』に『猿の惑星:創世記』、『マイティ・ソー』、『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』、『宇宙人ポール』などなど、数えたらきりがないほど1年間で150本くらいは堪能させてもらった。もっともレンタルBD・DVDがほとんどではある。何本かは映画館で観たが、わが家のホームシアターで音響を大きくして鑑賞しまくった。アクションものSFものラブ・ストーリーものコメディもの、『塔の上のラプンツェル』のようなアニメものまで、面白そうなものには貪欲に楽しませてもらった。とりわけ『アベンジャーズ』については、ヒーローこと正義の味方は、絶対に強くなければならないし、弱いヒーローは好かれないということだ。弱きを助け強きを挫くのは、スーパーヒーローでなければならないし、心優しくあらねばならぬ。これは昔から不変だ。今の時代に最も必要なのは、行動で正義を表わし、悪を糺すこと。悪党にこれ以上やられてはいけないということだ。誰もが抱ける勇気さえあれば、みんな可能なのだ。騙そうとする奴、意地悪な奴、冷酷で残忍な奴には、負けてはいけないということだ。勇気を振り絞って正しい信念を貫くこと。勝ち組だの負け組だの、線引きする奴ほど、人間が出来ていないということだ。大事なものは愛と勇気だ。勝ち負けではない。生きとし生けるものすべての命に尊厳はあるのだ。弱き命であればこそ、大事に守ってあげねばならぬのである。
(2013/01/07)