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書斎の部屋
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 「インターネット文学館」がホームページ内で20年も続くと、やはり見直したくなる。どこに文学館があるのかさえ疑わしくなる。頭脳のなかにそれらしき片鱗が(うごめ)いているのかもしれぬが、たわごとのようにもおもえる。そもそも「書斎の部屋」とは少々変ちくりんではあるのだが、書斎の部屋はそもそも仕事部屋でもあり、PC・タブレットが5台あり、光回線とLANケーブルとオーディオケーブルと同軸ケーブルにHDMIケーブルにUSBケーブルに電源ケーブルなど配線がごちゃごちゃ縫うように這っているが、仕事柄まあ割と几帳面な施工にはしてある。ホームシアターとオーディオルームの部屋でもあり、すべてはエンターテインメントの仮想世界に入ってゆけるようケーブルは繋がれている。1枚のディスクが揺さぶるような異世界へと誘う設計だ。あるいは衛星録画の映画もそのまま最新サウンドバーを通してホームシアターの臨場感が楽しめるよう配置もしてある。2台の最新型サウンドバーは最新型BDレコーダー2台にそれぞれが設置してある。いずれも3D音源出力のドルビーアトモスやDTS-Xに対応するものだ。片方のシャープ製BDレコーダーは画質のよい4Kチューナー内蔵の録画専用に使い、もう片方の東芝製BDレコーダーは最新型最終製造機の3D映像専用で使い分けている。最近のサウンドバーは安価とはいえ、驚愕するほどの繊細な高域と低域を醸し出して来る。AVアンプは最早要らないようだ。ハイエンド仕様のアンプを30年余り長年使って来たマニアだからこそ言えるのかもしれない。

さて、この書斎には5000冊余りの書籍と、文献資料も合わせるとおよそ10000点余りの書籍類と資料類が累々とあることになるが、当然ながらこの部屋には全部を置けないので、今は別宅の書庫に保管してある。研究でよほど必要な時にだけ持ち出せばよいので、まあさほどに重要でもない文学書や文庫本が置いてあるだけだから、滅多に持ち出すこともない。ただ、貴重な明治時代の稀覯本(きこうぼん)もあるから、珍しいものを(あさ)っていた若い時の情熱がいろいろ垣間見えて、懐かしい青春時代の形見のようにもみえ楽しくはある。さながら隠れた文学館のようなものだ。国指定天然記念物の大岩を使って家の石垣にしているから特徴のある文学館ともいえるだろう。

ところで、谷崎潤一郎と今東光の交流場面をふとわたしは思い出す。今東光のエッセイのなかで、谷崎潤一郎の書斎には、なぜかいつ来ても本が一冊も見当たらないというのだ。絶対どこかに隠しているはずだと思い、谷崎が書斎から出たあと、こっそりと和机の引き出しや押入れ、他の部屋の隠し部屋など本がどこかにないかさんざん探してみるのだが、どうしても見つからなかった、という(くだり)があり、「谷崎先生。なぜいつも本が一冊もないんですか?」と訊くや、「必要のないものは、置かないだけだ」と言われ、今東光はあらためて文豪・谷崎潤一郎にひどく感心し、(こうべ)を垂れた、と書いている。そんな今東光もわたしの大好きな文豪の一人であるが、彼の著書『吉原哀歓』は本当にすばらしい泣ける作品の一つ。谷崎の『少将滋幹(しょうしょうしげもと)の母』は、数多くある作品のなかでも忘れられない美しい文体を織りなす作品の一つで、日本語の結晶といえるだろう。今の若い人達にはそんな日本語の本当のすばらしさを知ってほしい。文は人なり。


Web公開作品 (作・古川卓也)
 短編小説集 『ブルーベリーの王子さま』
 歴史小説 『曙光』
 小説 『冬の蜃気楼』
(2022/11/11)
文・ 古川卓也





制作・著作 フルカワエレクトロン

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